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山本晶大「蒲原到着(1日目)」

静岡マイクロ・アート・ワーケーションのプログラムで、静岡県清水区蒲原を旅させていただく山本晶大と申します。

詳しいプロフィールはこちらのサイトからどうぞ。

私は普段、空家や古民家でインスタレーション作品の展示を行ったり、仕事としてリノベーションを行ったりしているため、現代アートや木造建築、まちづくり、空家や環境をめぐる社会問題などに注目した内容の発信が主になります。

このnoteでは滞在中の行動記録も兼ねて、メモや日記的な感覚で見聞し、考えた内容を記していきます。

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岡山駅から新幹線でおよそ3時間、そして静岡駅から約30分ほど熱海方面行きの電車に乗って新蒲原駅に到着。

ちょうど静岡についたあたりから少し雨がぱらついてきて、残念ながら富士山は見えないまま、とりあえず宿泊予定のゲストハウスにチェックインして荷物を置くために旧東海道の方へ足を進める。

駅周辺の建物は比較的新しく、あまり歴史を感じないが、線路下を潜り抜けて旧街道が近くにつれて趣のある屋根や蔵がちらほらと見え始めた。

昔の街並みそのままに町屋が並ぶとまでいかないまでも、建て直された新築物件や今風にリフォームされた家々の間に昔ながらの町屋もちゃんと残っていて、昔の街並みを偲ばせる。

天気予報によれば、明日以降はしばらく晴れが続く様子。またじっくり見て回ろう。

受付のある駄菓子屋でチェックインを済ませて、オーナーさんに少し離れた場所にあるゲストハウスに案内してもらい、そのあと今回のマイクロアートワーケーションのホストの一人である木下さんが管理する旧岩邉邸での初回挨拶をかねた打ち合わせに向かう。

しずおか民家活用推進協議会の木下さん、ゲストハウスオーナーの大澤さん、蒲原地区まちづくり推進委員会の稲葉さん、そして今回のMAWの旅人として招いていただいた豊永さんと私とで軽く挨拶を済ませ、今後の予定を話し合った後、稲葉さんが蒲原地区についてスライドを使いながら色々説明してくださった。

1日目打ち合わせ2

特に興味深かったのが、それほど大きいというわけでもない蒲原地区の範囲内に11ものNPO団体があり、NPO法人化していないものも含めたら120余りもの市民団体があるということ。

その発端は先進的な取り組みをしていた山崎町長という人が、住民に対して国や町からの補助金頼みの活動ばかりするのではなく、NPO法人などの仕組みを活用して自分たちで独立して活動を行っていくことを促したためだとのこと。この取り組みがその後の平成の市町村大合併後の蒲原町のあり方に大きく影響してくる。

衰退する地方自治体の財政難や行政の効率化など、様々な理由や思惑があって行われた平成の市町村大合併だが、その結果、多くの市町村では行政サービスが良好になるどころかむしろ悪化した。その理由は各自治体によっても異なるが、大まかに共通するところを述べると、今まで町役場や村役場といった小さな単位で細やかに対応できていた問題が、市町村合併により小さな町役場や村役場が廃止されて大きな町役場や市役所に機能が集約・効率化されたことで、今まで対応できていた細やかなサービスや問題解決などのサポートが滞るという事態が多くの自治体で起こるようになった。

それは静岡市に合併された蒲原も同様で、例えば空家問題にしても静岡市の市街地周辺と旧東海道に面した古民家の残る蒲原などではその状況は大きく異なるにも関わらず、行政は静岡市全体に対する空き家対策を打ち出しているため、現状把握だけでも膨大な作業が必要になってしまう。ゆえに各エリアの状況を考慮した行政主導の細やかなサポートが得られていないのが現状の様だ。また、縦割り行政の弊害で、いくつかの領域を横断して協力し合うべき取り組みなどへの柔軟な対応が損なわれてしまっている。こういうことが空家問題だけでなく様々な領域で起こってしまっており、まちづくり界隈では重要な問題になっている。

また、私が他の自治体でフィールドワークをしているときに聞いた興味深い話の中には、今までその町出身の者が町役場に勤めていたため、町を良くすることに積極的で、町の人と円滑にコミュニケーションをとりながら行政サービスを町民に提供できていたが、合併によって町の人間が市役所の方に出向させられ、町役場には町に愛着も興味もない市の人間が出向してくるようになったため、いわゆるお役所仕事的なサービスしか受けられなくなり、町の文化や伝統行事の維持に対するサポートなども熱がなくなったという話もあった。

蒲原も静岡市との合併で、蒲原の歴史や文化、郷土愛などが消えるのではないかという危機感が生まれたが、歴史保存や文化活動、福祉活動など、様々な取り組みを行なっている民間グループが行政の補助だけを頼りにせずに独立して活動を行なっていたため、それぞれのグループが蒲原の歴史や文化を子供達に継承していくという目的で団結し、市町村合併によって生じる弊害をそれぞれのグループが上手く緩和している。

また、隣の由比町が静岡市との合併を一度拒否したことによって、元々由比町に設置される予定だった支所が蒲原に新たに作られるなど、静岡市との合併がむしろ有利に働いた面もあるとのこと。

市町村合併の弊害によって衰退していく町をNPOなどの民間主導の組織が挽回しようとしている構図は他の自治体でもよく見かけられるが、これほどの数のNPOやグループが都市部ではない狭い範囲に集中して存在し、行政の穴を埋めるかのように活動しているのはとても興味深い蒲原の特徴と言っていいのかもしれない。

もちろん蒲原にも直面している課題はあり、日本の他の自治体と同じく少子高齢化が重要な問題になっている。今はまだ小学校や中学校があるが、少し前に高校がなくなったため、高校生は蒲原の外の高校に通い、町中で高校生の姿を見かけることはほとんどない。現在ある小学校2校と中学校1校も1つの小中一貫校に統合する話が進んでいる。

また、活動をしている人々の多くが70代前後で、次世代への継承をどうするかも重要な問題。

初日からとても興味深いお話をお聞きすることができた濃密な1日だった。

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