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山本晶大「蒲原滞在最終日(7日目)」

朝起きて手早く身支度を済ませ、部屋の掃除にとりかかる。
今回の滞在では1日〜4日にゲストハウス燕之宿、4日〜7日は豊永さんと入れ替わりで、受け入れをしてくださった木下さん夫婦の住まわれている旧岩邉邸の離れに宿泊させていただいていた。
旧岩邊邸は新田開発などにも寄与した蒲原町の有力者のお宅の一つで、間口六軒の入り口から奥に向かって広大な面積と蔵や離れ、庭園を有した立派な町家。

7日目旧岩邊邸母屋

まだ海外からの旅行客が一般的でなかった頃、JTBのツアーバスがたまたま不調を起こして蒲原に止まり、修理のあいだ海外からの旅行客を有力者の家であった旧岩邊邸でもてなしたところ好評だったため、以降JTBの東海道アドベンチャーツアーの一部に組み込まれていたとのこと。海外からの旅行客に喜んでもらおうと、庭に噴水を作ったり、当時下働きしていた元タイル職人にタイルを貼ってもらったりと、色々と外国人受けを狙った改修が施されているのも面白い。宿泊させていただいていた離れの玄関には、JTBのツアーで訪れたお客さんがどこの国から来たのかを示した地図も残っている。ロシアから訪れた人がいないのは、当時が米ソ冷戦の最中だったからだろうか。

7日目旧岩邊邸東海道アドベンチャー

7日目旧岩邊邸地図

母屋の裏にはもともとあった台所を改修し、古いお風呂を潰して拡張した、木下さんの奥さんがパンを作るための厨房があり、旧岩邊邸に滞在中は毎朝美味しいパンを食べさせていただいた。現在はマルシェなどにときどき出品しているが、お店を作ることも計画中とのこと。マルシェなどで木下さんの奥さんがパンを出されている「かえるの庭」を見つけたら、ぜひ食べてみてください。

7日目旧岩邊邸パン厨房


掃除を済ませたあと、豊永さんが「えまるじょん」という子育てや教育の支援を行う施設を運営されている米倉さんに挨拶に伺うとのことなので、私もまだ直接お話できてなかった米倉さんに挨拶できたらとご一緒させてもらう。えまるじょんには米倉さん夫婦と池田さんという蒲原で教育に携わられてこられた方々のお話をすこしお聞きすることができた。平成の市町村合併以降、蒲原の学校で教える先生も蒲原以外の出身の人が増え、蒲原のことを熱意を持って子供達に教えていかなくなったことも影響してか、だんだんと蒲原という町自体に郷土愛を抱く子供や若い世代が減ってしまっているとのこと。
今回の滞在中に色々な方のお話をお聞きすることができたが、お話を伺った人々はみな積極的に活動している人々だった。しかし、蒲原に住んでいてもそうした人々とはほとんど交流なく過ごしている人も多いことだろう。特に若い世代は家と職場もしくは学校との往復、仕事や子育てで精一杯であり、まちに関わる余裕のない人も多いと思われる。工場に勤めている人やサクラエビ漁・しらす漁を行なっている人々にもお話を伺えていない。次に蒲原に訪れたときには、今回はあまり関わることのできなかったそうした人々や子育てをしている若い世代の人々の話もお聞きすることができたらと思う。

えまるじょんで少しお話したあと、お世話になった稲葉さんのお宅にも豊永さんと挨拶に伺い、そのあと私はお隣の由比にある由比缶詰所に行ってみた。蒲原から薩埵峠まで散策していたとき、蒲原の外れに位置する神沢のあたりで「いなば食品この先○km」と書かれた看板を見つけたので調べてみたら、なんとあのタイカレーの缶詰や、うちの猫も大好物の「ちゅーる」で有名な「いなば」はお隣由比町が発祥で、静岡本社も由比にあることを知った。そのことを蒲原の方に話すと、「そっちよりも由比缶の方が美味しい!ホワイトシップという缶詰があるから食べてみて!」と言われたので、蒲原近辺のスーパーなどで探したものの見つからず、ネットで検索してみると、どうやらネット通販か工場に併設された直売所でしか購入できないらしい。(新幹線で帰る前に新静岡駅にあるセノバのデパ地下に行ったら売ってあったので、高いスーパーにはたまに売ってることがある模様。)あとでネットで買ってみようかとも思ったが、どうせなので由比の工場まで行って直売所で購入してみた。直売所には観光客だけでなく地元の人と思われるおばちゃんなども列を作って並んでいて、地元の人々から愛されている缶詰であることを感じた。

7日目由比缶詰所

帰って食べてみると、綿の種から取れる上質な油を使っているためか、油臭さやしつこさがなく、油と塩で程よく味付けがされていてとても美味しい。そのまま食べてもごはんが進むが、パスタに使っても絶対美味しいだろう。


由比から蒲原に帰る道すがら、気になっていた「イルカ スマシ」の文字のある魚屋さんに立ち寄ってみる。スマシというのはイルカのヒレを加工して作った食品で、するめのように噛んで食べる蒲原周辺独特の珍味だとのこと。苦手な人も多いそうなので、試しにちょっとだけ食べてみたいと思ったが、値段を聞いてみると一袋千円。加工に手間がかかるため、どうしても高くなってしまうらしい。しかも一人で食べるにはちょっと量が多く、お土産として持って帰るような感じでもなかったので、もし食べてみて苦手だったらどうしようかと躊躇して結局買えなかった。次に来たときに誰かと分け合いながら試しに食べてみたい。ついでにお土産を買おうかと干したサクラエビがあるか聞いてみたが、生か冷凍のサクラエビしかなく、不漁問題で干したサクラエビは出回っている量自体が少なくなっていると言われた。岡山の自宅に着くまで新幹線を使っても4時間半かかるのでナマモノは買えず、ちょっとお話を聞くだけのひやかしみたいになってしまってお店の方に申し訳ない。

7日目イルカスマシ


お昼前に旧岩邊邸に戻り、帰りの支度を済ませて木下さんへの挨拶をする。もうちょっと蒲原でゆっくりしていたかったが、帰ったら次の仕事の支度もしないといけないので、家につくのが夜遅くならないように蒲原を発つ。

蒲原での七日間は沢山の方々によくしていただけて、本当に充実した時間を過ごせた。また蒲原を訪れて、私の力を蒲原の町に役立てられるようなことをできたらと思いつつ、帰りの新幹線の中でこの日誌をしたためる。

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