内田涼「白い」(2日目)
私は「いつもと違うシャンプーを使う」ことは、旅の醍醐味の一つでもあると思っている。滞在中の湊庵に置いてあるシャンプー&リンスとはかなり相性がいい。香りもいい。朝起きて、自分の髪からいつもと違う匂いがするということにトキメキを感じる。なんだかサラサラだし、水質も合っているのかもしれない。
そういえば昨日、最年少ジオガイドの藤田くんが、火山噴火によって形成されるスコリアという軽石が、水を磨く濾過装置の役割を果たしているので、伊豆の水はとってもなめらかなのです!というようなことを言っていたのを思い出した。若干うろ覚えだけど「水が磨かれる」っていい表現だなと思った。ここの水道水もちょっと滑らかだったりするのだろうか。
そんなことを考えていたらいつの間にか二度寝をしていて、気がついたら外はだいぶ明るくなっていた。
昨日は誰かの車に乗せてもらったり、電動自転車を借りたりしたので、今日は徒歩で移動をする。道に迷ったりしながら、ホストの荒武さんから紹介してもらった「おばあちゃんち」というビュッフェ形式のお店へ行った。
てっきりおばあちゃんが店番をしているのかと思っていたが、もはや「姉貴」などと呼ばれていてもおかしくないような、とても元気で気さくな方が出迎えてくれた。すぐに私のことを「りょうちゃん」と呼んでくれ、もう一人のお客さん(元地域おこし協力隊の方だった)との会話にも混ぜてくれた。
ここの姉貴もとい森下さんも移住者で、元々例のシェアキッチン「ダイロクキッチン」で定期的に料理を振舞っていたが、ついに今年、自身の店舗である「おばあちゃんち」を構えるに至ったらしい。光の入る気持ちのいい空間で、とっても美味しいランチをいただいた。
これで500円、しかもおかわり自由なんて、信じられない。
どれも大変丁寧なお味で、ゆっくり身体に染み込んでいくのを感じた。冬瓜の煮物もゆず茶も美味しかった。。
「おばあちゃんち」は11/20に行われるキンメナーレ2021という企画に参加するらしく、アーティストによるワークショップも行われるとのことで、このイベントの日を皮切りに、夜間の営業も開始するとのこと。ちょっとバーみたいにして、瓶ビールとかソフトドリンクも充実させるよと言っていた。森下さんはとてもエネルギーに溢れていて、眩しかった。
歩いているとこの町の南国感をより強く感じる。面白そうな路地や、小道につながる石段がたくさんあったりして、散歩にはもってこいだ。
消火栓のデザインがどれもかわいい。
昨日教えてもらった清光院というお寺が近くにあったので立ち寄ってみた。通称「蛇寺」と呼ばれているらしい。
「白い蛇がいると聞いたのですが、もしよかったら見せていただけませんか」とちょっと勇気を出して聞いてみると、住職さんはすぐに蛇を連れてきてくれた。女の子だけど名前は「大吉」というらしい。白くて綺麗だ。両手の平の上にそっと乗せてくれて写真まで撮ってくれた。
住職さんが「今日はだいぶ穏やかです。興味を示すとこうやって舌を出します。」と教えてくれた。蛇の飼育経験が無いので詳しいことはわからないが、手に乗せられることを全然嫌がっていないというか、むしろとても人懐っこいと言っても過言ではない。キョロキョロしながら結構長い時間乗ったままでいてくれた。
大吉さんの身体の動きは穏やかな波のうねりのようで、遠くから順番に押し寄せてくるというかなんというか、触っていてとても心地が良かった。
目が赤く、とんでもなく透き通っていて驚いた。昔から赤い目の蛇は弁天さんの化身で、神の使いであると言われているらしい。目だけ取り出して持って帰りたいくらい綺麗だったのだけど、実はここの住職さんの目もかなりやばい。最初からずっと気になっていたのだが、目の中に星が入っているのかと思うくらいキラリとしている。思わず「住職さんの目もとてもお綺麗ですね」と言ってしまったほど。
ここが蛇寺になったきっかけの石も触らせてもらった。
この石は住職さんがこの寺に来てすぐの頃に偶然転がっているのを見つけて、模様があまりにも蛇だったのでこれは大変だということになって、大事に保管することにしたらしい。石を見つけたその日になんとなく自分の誕生日の数字で宝くじを買ったらそれが当たってしまい、またこれは大変だということになって、ちゃんと祠に入れて管理するようになったそう。石を触ってからいいことがたくさんありましたと報告してくれる人や、遠方から毎年訪れるような常連さんも多いらしい。私も大吉さんと住職さんの綺麗な目を見るために、またここへ来たい。
上機嫌でフラフラしていると、小さな本屋さんがあった。この何気なく入った「山田書店」、本のラインナップがかなりかっこいい。旅、建築、政治、哲学、文化人類学、生物学などに加え、フェミニズム関連の本も置いてある。知人の出したマニアックな本も取り扱っていて、とてもびっくりした。こういう本屋さんが、しかも小学校の目の前にあるなんて。控え目に言って最高だと思った。またゆっくり来ようと思う。
ホストの荒武さんが迎えに来てくれて、深澤彰文さんという陶芸作家の方のアトリエ見学へ向かった。アトリエは山田書店のすぐ近くにあり、ここからも小学生の遊ぶ声が聞こえる。
深澤さんの創る作品は白磁といって全て真っ白だった。真っ白で丸く、宮殿のようなフォルムの作品がたくさん並んでいて、アトリエ内はとても神聖な感じだった。モランディの絵画を彷彿とさせるような静けさが漂っていて、入った瞬間はちょっと緊張したが、深澤さんが予想を超えるチャーミングさを持ち合わせている人物だったので、緊張なんてすぐに何処かへ飛んで行った。
深澤さんが「珈琲飲めますか?」と最初に聞いてくれたことがとても嬉しかった。私は悲しいことに珈琲がぜんぜん飲めないので、事前に確認してくれる人への信頼度が自然と高めになるのだが、ホストの荒武さんも深澤さんのことをとても慕っているように見えた。深澤さんのカップで飲むお茶は大変美味しかった。
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