吉﨑裕哉「龍山で、僕は今日も眠れない」龍山町6日目

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朝6時。毎日行くところがたくさんあり、休みなしで活動しているのでかなり眠いが今日はかねてより楽しみにしていた朝霧を見に行くことにする。
ホストの鈴木のぞみさんは生まれ故郷の龍山に戻って来てからひたすら山の中を歩いて様々な音に耳を傾け音楽を作ってきたという。
なので彼女に「こういう場所が見たい」というとすぐに提案をしてくれる。
朝霧はそんな彼女のおすすめの景色だ。

龍山の朝霧はこの土地の真ん中を流れる天竜川から立つもので前日に雨が降ったり色んな条件が揃うと見られるらしく、何でも前日の月の感じを見るとのぞみさんは朝霧が出るかどうかわかるらしい。
この日は前日の様子から希望は薄そうだったがとりあえず早起きをしていってみることにした。

場所は龍山町戸倉から30分ほどの山の中にある。
いざ着いてみると...

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残念ながら朝霧は出ていなかった。
少しがっかりしたが木々の間から綺麗な朝日をみることができたので満足して一度下山。

その途中、瀬尻方面に降りている山道で

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偶然朝霧が立っておりそこに朝日が差し込んでいた。あまりの美しさに2人で車をおり撮影が始まる。
しかしこの霧もものの5分程度で消えてしまった。
偶然にしか出会えないこの霧に一期一会、人生の儚さに似たものを感じた。

今日は龍山から少し離れて、北にある佐久間や水窪へも足を伸ばすことに。

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夏焼集落...大嵐駅からトンネルを2本抜けた先にある、現在は誰も住んでいない集落。今でも元住人の方が定期的に手入れに来ているらしく荒れた感じはなくとても静かでゆっくり時間が流れていた。
※訪れる際は敬意を払いましょう。

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豆こぼし...豆こぼしトンネル手前の坂を下に降りていくとある水が綺麗な場所。今は水が少ないのでその名前の由来を窺い知ることはできなかったがいわゆる魔のカーブで天竜川を輸送する船から豆がこぼれるほどの急カーブが名前の由来。

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夏焼隧道...夏焼集落へ行くにはこの全長1kmを越えるトンネルを通らなければならない。トンネルは暗く一見怖い雰囲気だが歩いてみると神秘的な雰囲気に心が奪われる。水の流れる音、小鳥の囀り、自分の足音などが反響し空間を満たしている。

その後龍山に戻り、一度ゆっくりと時間を過ごしたかった瀬尻橋へ。

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天気が良かったのでドローンを飛ばして天竜川をフライトしてみる。
天竜川はダムを建設する際に急流による反乱から町を守るため元の位置よりかなり高く町を作り直した。そのため元々あった建物は今は水の中に沈んでおり、この瀬尻橋から 100mほど川下に行ったところにも水面から元々天竜川にかかっていた橋の上部分を見ることができる。

この橋からすぐのおうちに御年93歳の宮澤マキさんが住んでいる。
古くからこの龍山に住んでいる彼女にお話を伺いに行く。

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93歳とは思えないしっかりとした足取りで出迎えていただき、お家の中で昔のお話を聞く。昭和4年に7人兄妹の4番目として生まれたマキさんは小さい頃から苦労が絶えなかったと言う。家族を養うためとにかく働いて働いて大変だった。でも今はたくさんの孫子を持ち、その写真をとても幸せそうに見せてくれた。

「昔はねぇ、めちゃくちゃだった。今じゃ考えられないね」

この龍山に生まれそして94年経った今でも龍山に一人で暮らしているマキさん。
いつまでもいつまでも元気でいてほしいと心から願う。

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マキさんありがとうございました!!

夜は浜松山里いきいき応援隊、通称山いき隊の鈴木千陽さんと長谷山大騎さん、旅人の市川まやさん、ホストの鈴木のぞみさんと懇親会を行った。

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とにかく龍山の人は優しく、温かく、笑顔で僕を迎えてくれた。
「芸術家の人がこんなところに来てくれて素晴らしい」と言ってくれた。
家族のように接してくれた彼らに、僕は何をすることができるのだろうか。
MAWでの6日間を経て素敵な経験をさせてもらったが同時にこれからへの大きな課題も新たに生まれた。

「芸術は人生に必要なのか?」
「地方における芸術のあり方」

まだまだ寝不足の日が続きそうだ。

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