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『壁の中の扉』

職業斡旋所の列を抜け出して少し歩いてみる。町をふらふらと徘徊する。
ふと顔をあげると 

『あ…. トマソン?』

古びたエアコンの室外機、その傍らの扉、壁面の扉の真下にあるのは隣家の屋根。

暗澹たる気持ちのままで家に帰り、暫くすると夜になる。ふと、トマソンのことを思い出す。HGウェルズの本を手に取り『くぐり戸』という話しを読み返す。壁の中に出現する扉、扉の向こうの艶やかな世界。内なる楽園に魅了された男の話し。あのトマソンが『くぐり戸』みたいに内なる楽園への架け橋で、どのような人物がいつ、あの扉を行き来するのかと空想する。自分なら扉を開けて中に入るのか、それともやめておくだろうか…。



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