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明け方、旅の少年に出会う

 午前2時半、3時過ぎ。中途半端な夜の現に目覚めてしまったときはいつでも、わりとラッキーだと思う。夜更かしが苦手で「23時に寝ます!」と宣言しても結局22時前に布団に入ってしまうわたしが、唯一夜を感じていられる瞬間だから。
 直前まで夢を見ていたのかはあまり覚えていないけど、まるで朝かと間違うほどにぱっちり眠りが解けていく。「あ、まだ2時か、ヨッシャ」と思ってだいたい1時間ほどそのまま寝ずに起きている。電気は点けない、布団から出ない、当然カーテンも開けない。

 ありがたいのが、わたしの身体はこの束の間の夜更かしを「起きている時間」としてカウントしないことだった。
 理論的に考えると1時間の睡眠中断は1時間の就寝遅延と同義になりそうなのだが、なぜか翌日全く支障を感じない。普通に6時に起きられるし、日中の昼寝も、仮眠でさえも必要ない。わたし専用の夜かのように特別だ。


 そんな夜中に、ネットで拾った短編小説を何気なく読み始めるのが大好きだ。邪魔するものもやるべきことも何もないから、驚くほどに読みふけることができてしまう。
小説はほとんど読まない」と過去に書いたが、顔も名前も知らない誰かの短編だったら実はわりと読んでいる。短編は作者が書こうとしている世界がぎゅっと濃縮されているから、ストーリーより雰囲気を楽しみたいわたしに向いていると思う。

 今日の午前2時半もさくっと1つ読んでいた。小さな村落に住まう少女と世界を旅する少年の、たった数日間の恋の物語。まさかボロ泣きするとは思っていなかった。盛大なネタバレをすると、少年はこの村落の旅を最後に死んでしまう。
 寝転びながら泣いてしまったものだから、伝った涙が耳に流れていきそうだとか、鼻水を右と左のどっちにやったほうが良いとか、地味だけど厄介な問題に悩まされた。
 そもそもこれは鼻水なのか、実は鼻血だったりしないか。鼻血だったら我ながら、とんでもなく空気を読めない野郎だな。


 結局その後また眠ったのは、日の出も近くに迫った時間だと思う。アラームが鳴っていつも通りの6時に起きると、身体の下敷きになった右手がジンジンと少し痺れていた。

 明け方に見た夢の中ではあの短編の世界に行って、わたしも旅の少年に恋をしていたような気がする。今日もあいにく天気が悪い。


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