言葉でしか言い表せない

 頭の中にあるモノを五感に換えて現実世界に生み落とすのは、実はあんまり得意じゃない。
 既存の曲を楽譜にしたりはできるけど、自分の曲は作れない。模写や写生はわりと得意だけど、オリジナルの絵は描けない。

 音楽を作るソフトを買ったり絵を描くアプリを入れたりしても、結局没頭しなかった。理由はとても単純だった。「これはわたしの表現法じゃないんだな」と早々悟る。悟れたことが幸福だったとすら思う。

 それでも形にしたい何かはあったし、決してアイデアが皆無なわけではなかったはずだ。曲は無理でも歌詞なら書ける。漫画は無理でも話は浮かぶ。


「言葉で言い表せないもの」はたくさんあるんだと思う。だけどわたしは自分が伝えたいことを、たぶん言葉でしか言い表せない人間だ。

 これはあくまで日々の感情表現だったり人との会話だったりでなく、創作をする上での話。
 思考を感覚に変換するのがどうにも苦手だ。視覚や聴覚。頭の中のイメージをそれで外に出し切ることが全然できない。

 だけど言葉は、どこまでいってもわたしの頭の中にある。文字にすれば視覚になり声にすれば聴覚になるが、どちらでもあるということは、つまりどちらでもないんじゃないかと思ったりする。

 言葉は五感のどれでもない。

 だからわたしは書くことを好きになったんだろうし、書くことを選んだんだろう。

 せっかくなら言葉で言い表せないものも、言葉で言い表せるような人になりたい。


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