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五条悟の無下限呪術を非ユークリッド幾何学で解釈してみるよ

結論

五条悟は自分のまわりに上半平面みたいなものを作ってると思います。

序論

序論、本論、結論のセオリーを無視してすみません、おしるこです。本日はあの大人気漫画、『呪術廻戦』について思うところあって、筆を取らせていただきました。呪術廻戦、面白いですよね。もはや説明など不要ではあると思うのですが、一応簡単に説明をしておこうと思います。

ちなみにこの記事はこの企画に漫画・アニメカテゴリとして参加しています。よろしくね。

呪術廻戦とは

呪術廻戦は、芥見下々あくたみげげが週刊少年ジャンプで連載しているバトル漫画。
主人公である虎杖悠仁いたどりゆうじを始めとする、呪術という特殊能力を扱う呪術師たちと、人間の負の感情から生まれた呪いという怪物たちとの戦いを描いた作品。

ちなみにここの説明、noteの執筆機能であるAIくんに書かせようとしたのですが、AIくんは伏黒恵いったくろめぐみなる人物が主人公だと勘違いしていました。
主人公じゃない上に読み方、ふしぐろめぐみだしね。呪術廻戦の中では格段に名前読みやすい方だからね、伏黒。

術式

上で紹介しました呪術師。彼ら(のほとんど)は各々固有の術式というものを駆使して戦闘を行います。
術式とは各術師に備わった固有の特殊能力のことです。たとえば作中だと、十種影法術とくさのかげぼうじゅつ(犬や兎など、動物の姿を模した式神という仲間を従える能力。式神もそれぞれ固有の能力を持っている)や、赤血操術せっけつそうじゅつ(自らの血液を操作する能力。自分の血液を超高速で飛ばしてレーザーみたいにしたりできる)といったものがあります。

五条悟という男

五条悟という名前、呪術廻戦に詳しくない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか。五条悟は作中で幾度となく最強と称される呪術師であるのですが、なんと彼の術式である無下限呪術むかげんじゅじゅつ全くもって意味不明です。

これ冗談じゃなく、読者のほとんどが何となくで流している。マジで。そんなことあっていいのかよ。作品の看板キャラクターの能力が意味不明ってそんなわけないだろ。もっとスタープラチナとかルフィとかを見習えよ。なあ。

どれくらい無下限呪術は意味不明なのか

作中から無下限呪術に関する説明を引用します。

以下は五条悟がブラックホールのようなもので吸い込む攻撃をした後に行った、本人による解説です。(読みやすさのために適宜句読点、改行を入れています)

俺の術式はさ、収束する無限級数。俺に近づくモノはどんどん遅くなって、結局俺まで辿り着くことはなくなるの。
それを強化すると"無下限"……"負(マイナス)の自然数"ってとこかな。"-1個のリンゴ"みたいな虚構が生まれるんだ。
そうするとさっきみたいな吸い込む反応が作れる。

え?????何て???????

本論

今回はそんな無下限呪術を五条悟お得意の数学、とくに幾何学を使って解説してみます。できる限り簡単な説明を試みますが、内容が内容なので、どうしても難しいところがあります。ごめんね。
一応、高校数学程度を前提知識としています。微分、積分、曲線のパラメータ表示あたりが分かれば多分行けるんじゃないかなと思います。要は数IIIのアレですね。

運動のパラメータ表示

突然ですが、あるゲームを考えましょう。
まず皆さんは、座標平面上を動く点$${P}$$を見せられます。あれです、あの点$${P}$$です。
その後点$${P}$$がどう動いていたかを、点$${P}$$の動きを実際に見ていない別の人に伝えます。点$${P}$$の動きが相手に完全に伝われば勝ちです。
さて、この時どのように伝えれば完璧に動きが伝わるでしょうか?

数学の答えはこうです。
時刻$${t}$$に点$${P}$$がいる座標を$${(x(t),y(t))}$$として、関数$${x,y}$$を伝えれば良い。

初見では「は?」となりますね。簡単な例を考えてみましょう。

例えば、点$${P}$$が直線$${y=x}$$(比例の一番簡単なやつです)の上を、時刻$${0}$$では$${(0,0)}$$、時刻$${1}$$では$${(1,1)}$$、時刻$${2}$$では$${(2,2)}$$…というように右上方向に一定のペースで進んでいる場合を考えましょう。ここで時刻の単位がありませんが、単位は何でもいいです。秒でも分でも。数学の世界ではあまり単位のことを考えませんからね。

さて、このとき時刻$${3}$$で点$${P}$$はどこにいるでしょうか?

答えは簡単、$${(3,3)}$$ですね。もしこれが厚切りジェイソンのネタなら次にオチがきますが、数学の世界ではオチはありません。安心してください。

では小数の場合も考えてみましょう。時刻$${2.5}$$では点$${P}$$はどこにいるでしょうか?

こちら、予想がついたでしょうか?正解は$${(2.5,2.5)}$$です。別に点$${P}$$は$${(2,2)}$$から$${(3,3)}$$にワープしてるわけではなく、一定のペースで着実に進んでるワケですからね。

それではラストクエスチョン。時刻$${t}$$のとき、点$${P}$$はどこにいるでしょうか?少し改行を挟んでみましょうか。









正解は$${(t,t)}$$となります。正解できましたか?

さて、先ほどの$${(x(t),y(t))}$$の意味を考えてみましょう。ズバリ、左側の$${x(t)}$$は時刻tにおける点$${P}$$の$${x}$$座標の値を、右側の$${y(t)}$$は時刻tにおける点$${P}$$の$${y}$$座標の値を差し示していたのです。

このようにして我々は平面上の点$${P}$$の動きを数式を用いて表現することができるのです。常に簡単な数式で書けるとは限りませんがね。

微分、それは速度

かつて高校生だった貴方へ、数IIで微分を習ったであろう貴方へ。(もし習っていなかったらごめんね)
世の中には微分というものがあります。あるんです。これも少し具体例で考えてみます。

車に乗っている時、運転席にあるスピードメーターを見たことがあるでしょうか。アレ、時速が書いてあって、車が減速すると下がって加速すると増えますよね。つまりアレは瞬間瞬間の速さを指し示しているものなのです。

実は速度には瞬間の速度という概念があります。本来速さを計算するためには、(速さ=距離÷時間を計算するために)ある程度まとまった時間が必要なのですが、その時間を極限まで短くとって、まさしく瞬間的な速度の値を求めたものを瞬間の速度といいます。

話を動く点$${P}$$に戻しましょう。点$${P}$$も動いているのだから、各時刻$${t}$$における瞬間の速度というものがあるはずです。これを考えてみましょう。

速度を考える上で重要な要素として、移動する方向というものがあります。実は物理で速度と速さと使い分けた時には大きな違いがあります。
単に速さといえばそれはあくまで動きの大きさのみを指すのですが、速度はそれに加えて移動する方向という情報を加えたものとなっています。専門的な言葉を使うと、スカラーとベクトルってやつですね。今回は速度の方を考えます。

点$${P}$$の動く向きを$${x}$$軸方向(横方向)と$${y}$$軸方向(縦方向)に分解してみましょう。
たとえば点$${P}$$が右上方向に動こうとしている場合は、それを右方向に動こうとしているのと、上方向に動こうとしているのが組み合わさって右上方向に動こうとしているのだと解釈します。左下なら、左方向と下方向の合体。

そして、右方向に速さ$${a}$$で動こうとしているのを$${(a,0)}$$、左方向に速さ$${a}$$で動こうとしているのを$${(-a,0)}$$、上方向に速さ$${a}$$で動こうとしているのを$${(0,a)}$$、下方向に速さ$${a}$$で動こうとしているのを$${(0,-a)}$$でそれぞれ表すことにします。さらにこれらは組み合わせることができます。
例えば$${(1,-1)}$$と書いた時、これは右方向の$${(1,0)}$$と下方向の$${(0,-1)}$$が組み合わさっていると考えることができ、トータルで右下に動こうとしているのだとわかります。

点$${P}$$の動きが$${(x(t),y(t))}$$で数学的に表されているとしましょう。この時、時刻$${t}$$における$${P}$$の速度を$${(x'(t),y'(t))}$$と書くことにします。実はこれが微分です。

先ほどの例$${(x(t),y(t))=(t,t)}$$は右方向に速さ$${1}$$と、上方向に速さ$${1}$$で動くのが組み合わさってできた運動でした。なので、この場合は$${(x'(t),y'(t))=(1,1)}$$となります。

三平方の定理

突然ですが三平方の定理、覚えているでしょうか?三角形のアレです。端的に言ってしまうと、直角三角形の斜辺の$${2}$$乗は他の二つの辺の$${2}$$乗の和に等しくなるやつ、$${a^2 = b^2 + c^2}$$のやつです。

実はこれを使うと、速度から速さを求めることができるのです。これも例を考えてみましょう。
速度が$${(1,1)}$$、つまり右に速さ$${1}$$、上に速さ$${1}$$で動いてる場合を考えましょう。この運動の速さはトータルすると、足して$${2}$$……とはなりません。結論から言うとこの速さは$${\sqrt{2}}$$となります。なぜでしょうか?

右方向に$${1}$$、左方向に$${1}$$、これを直角三角形としてみなします。するとその斜辺の長さは三平方の定理より$${\sqrt{2}}$$となります。

このように、速度が$${(x'(t),y'(t))}$$であるような運動の速さは$${{x'(t)}^2 + {y'(t)}^2 }$$のルートで書くことができます。本来なら数式としてルートを書くべきですが、これから先の都合上速度そのものよりも速さの$${2}$$乗を考えた方が何かと都合がいいのでこれを考えていきます。

積分、それは長さ

時刻$${a}$$から$${b}$$までの間に、$${(x(t),y(t))}$$で動く点$${P}$$がどれだけ動いたかを求める方法が実はあります。それこそが積分です。
計算等の詳細は省くのですが、速さを時刻$${a}$$から時刻$${b}$$まで$${t}$$で積分すると、点$${P}$$が時刻$${a}$$から時刻$${b}$$までに運動した道のりを計算することができます。
一応、式で書くと$${ \displaystyle \int _a ^b \sqrt{{x'(t)}^2 + {y'(t)}^2} dt }$$という感じのやつになります。なんだか難しそうですね。
とにかく式の意味は考えなくてもいいので、なんか文字が多くてごついやつ(もじごつ)を計算すると点$${P}$$がどれだけ動いたかわかるということを認識してください。

今までのまとめ

ここまでの議論を簡単におさらいすると

  • 平面上を動く点$${P}$$の動きは$${(x(t),y(t))}$$と表せる。

  • 時刻$${t}$$における点$${P}$$の瞬間の速度は微分を用いて$${(x'(t),y'(t))}$$と表せる。

  • 瞬間の速度$${(x'(t),y'(t))}$$をそれぞれ$${2}$$乗して足した$${{x'(t)}^2 + {y'(t)}^2 }$$は瞬間の速さの$${2}$$乗になっている。

  • 瞬間の速さを時刻$${a}$$から時刻$${b}$$まで$${t}$$で積分したものである$${ \displaystyle \int _a ^b \sqrt{{x'(t)}^2 + {y'(t)}^2} dt }$$を計算すると、点$${P}$$が時刻$${a}$$から時刻$${b}$$までに運動した道のりが出る

といった感じになります。実はここまでが高校数学(数III)の内容となります。そしてここからがマグマなんです。

速さの計算方法を変えてみよう

ついさっき「瞬間の速度$${(x'(t),y'(t))}$$をそれぞれ$${2}$$乗して足した$${{x'(t)}^2 + {y'(t)}^2 }$$は瞬間の速さの$${2}$$乗になっている。」なんて書いたばかりなのですが、この定義をいじいじしちゃいましょう。
ずばり、速さの$${2}$$乗の定義を新しく$${ \displaystyle \frac{{x'(t)}^2 + {y'(t)}^2}{y^2} }$$というものに変えてしまいます。
この定義において、$${y}$$の値がゼロに近ければ近いほど、分母は小さくなってしまいます。分母が小さくなると、分数全体としては大きくなりますよね。
これによって、$${y=0}$$($${x}$$軸)付近では見かけ上の動きが遅くても、実はめちゃくちゃな速度で動いてる。すなわち、$${y=0}$$に一定の速さで近づこうとすると、動きがだんだんゆっくりになるように見えるという現象が起きます。
このように速度の定義を変えた世界のことを非ユークリッド幾何学の世界と言います。非じゃないユークリッド幾何学は元々のやつね。特に、今回紹介したものはポアンカレの上半平面というものです。決して私の与太じゃないよ。

さて、この「一定の速さで近づこうとすると、動きがだんだんゆっくりになるように見える」という現状、五条悟の無下限呪術にそっくりじゃないですか?

つまり、どういうことだってばよ?

五条悟の無下限呪術、その(ニュートラルな)能力の一つに「五条悟に近づこうとするものは動きがだんだんゆっくりになって、五条悟に触れることができない」というものがあります。
なんとなく似てませんか?コレ。実際に上で考えた新しい距離において、$${y=0}$$付近にはどんなに小さく見えても、無限の広さの空間が広がっています。おそろしいですね。
つまり、五条悟は自身の付近の速度の定義を歪めていると考えることはできないでしょうか?無限級数とかなんだったんや……

終わりに

以上、五条悟の術式を考えてみました。考えてみましたが、これはあくまで推測の一つに過ぎません。というか、絶対違います。
そもそも、作者の芥見下下がこんなことを考えられるような人間ではないこと、呪術廻戦が好きな人なら周知の事実ですからね。だって黒閃の威力が2.5乗とか言ってる人だし……。

本当はもっと数学的に解説をしたいこととかあったのですが、これ以上説明をするとかなり専門的な数学の知識が必要になってしまうのでこの辺りで終わりにしておきます。私はまだ本気を出していない。
皆さんも是非呪術廻戦のトンチキ解説を真面目に考察してみてくださいね。それでは!

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