オンラインイベントでセレンディピティはあり得るのか

オンラインイベントでセレンディピティはあり得るのか。
世界最大の展示会であるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)。例年であれば、日本からも数千人単位で参加者があり、ラスベガス行きの特別便が出るほど、正月三箇日明けの「民族の大移動」だった。ところが2021年は、COVID-19の影響によりオールデジタルで開催された。

2021年のCESは、何しろイベントに関する情報提供が遅かった。レジストレーション受付が始まった12月3日になっても、具体的にわかっていたのはいくつかの基調講演とブレークアウトセッションのみ。展示企業に至っては、企業名が出ているだけで、その企業ウェブサイトのURLすら表示されておらず、面白そうな企業を探しておこうと思っても事前のリサーチは困難を極めた。またCESの公式ウェブサイトは検索がうまく機能しておらず、的を得た検索結果は得られないという惨憺たる状況だった。オールデジタルという未経験な開催におけるCTAの苦労と苦悩が感じられた。

事前リサーチが思うように進まないながらも、どのセッションが面白そうか、どの展示企業を見て回ろうかと、ツアーの自由時間を有効活用しようと一生懸命に計画を立てた。オールデジタルのCES2021はイベント終了後も参加者は2月15日まではオンデマンドでセッションや展示が見られてることになっていたので、欲張る気になればかなりたくさん情報収集ができることになる。展示内容が事前には全く公表されていなかったので、取りあえず、興味をそそるような会社名の企業で視察候補リストを作っておいた。

私は、オンラインCESツアーにも参加したので、基調講演や展示を同時通訳や解説付きで効率良く見ることができ、他の参加者たちとも交流ができた。密度の濃い、効率的なイベント参加ではあったけれども、そこにはセレンディピティはなかった。

そもそも、リアルの世界ではどんなふうにセレンディピティが生まれていたのだろう。
• SNSへの投稿で、知人も会場に来ていることがわかり、現地で会うことができた。
• 知人や会場で知り合った人を通じて、招待制のプライベートミーティングに連れて行ってもらった。
• 知り合いを通じて、また会場で会った人と名刺交換できた。
• SNSへの投稿で、自分のアンテナにはひっかかっていなかった面白そうな企業やサブイベント、アトラクションを知った。
• 人だかりがしている展示ブースの写真がSNSに投稿されていたので自分も見に行った。
などなど。そう、セレンディピティは、自分のレーダーでは探知できなかった情報を得ることが肝心なのだ。リアルの世界には、想定外なことや偶発的な出会いが存在する。オンラインイベントに「想定外」や「偶発」はあり得るのか。セレンディピティを仕掛けることは可能なのか。

3月中旬に開催されるSXSWでこの仮説を検証してみようと考えている。SXSWも開催まで3週間を切った2月末の時点でまだ詳細は発表されていない。展示企業名も公開されていないため、現時点では何ら計画を立てることができない。それならいっそのこと、全てをセレンディピティに任せてみようかという気になっている。計画は立てずに全て行き当たりばったりで「SXSWに参加」することができるのはこれが最初で最後の体験になるかもしれないからだ。

CESでは素晴らしい映像を駆使した仮想空間を構築して参加者を魅了した大手展示企業があった。そういった仕掛けで、没入感のある、参加者を感嘆させるような体験もあるだろう。でも私がその仮想空間に足を運ぶのは、その企業のことを知っており、そこに行けば何が見られるのかあらかじめ知っているからかも知れないし、「あそこの展示、凄いよね」という噂を聞いて私も見てみたいという野次馬根性が働いた結果かも知れない。どんなに素晴らしい展示や仮想空間を作っても、それが話題になり、その話題が広がっていかないと、セレンディピティを誘引しないのではないか。私が知りたいのは、そのセレンディピティを誘引するプラットフォームだ。

例えば、どこで人だかりがしているのかを知りたい場合。
人が集まっている様子を示すヒートマップは、よくWiFiホットスポットの利用状況を確認するシステムで使われている。スマホのGPSやWiFiアクセスポイントとの接続情報を使って、ユーザの位置を特定し、ヒートマップとして館内の見取り図にオーバーレイする技術だ。リアルのイベントなら同じ技術を使って、人の集まり具合のスナップショットや動線の分析ができるであろう。(もしかしたらそのようなことは既に計画されていて、コロナ禍でなければ実現していたはずだったかも知れない。)

しかし今回は、オンラインでの開催だ。オンラインで類似のヒートマップを作成するにはどうしたら良いか。セッションや展示ブース訪問がオンデマンド形式になるのか、実時間(リアルタイム)形式になるのか発表になっていない現時点では何とも言えないが、実時間でのヒートマップでなくても、累計で何人が訪問した展示ブースなのか、何人が再生・視聴したセッションなのかがわかるだけでも、参加者の動向は把握できる。VoDでなければ、VirBELA社のソリューションのように、アバターでヒートマップが表示されれば見栄えもするし非常に楽しい。けれども万の単位の参加者が予想される環境で、アバターを使ったヒートマップを作成、表示するにはどれだけのシステムリソースが必要なのか、誰がどこにいるかということが実名で把握できるメリットと個人情報完全公開というリスクはバランスを取ることができるのだろうかなど、懸念点もある。相手を特定して自分の個人情報(氏名と現在地)を共有する設定を数万人規模で実現できるものなのだろうか。

「君も来てたんだ。今どこ?じゃあ、○○で待ち合わせしようよ。」「なんだ、会場に来てるなら今夜一緒に飲みに行こうよ」というリアルイベントの楽しみは、オンラインでどう再現できるのか。「△日の○時○分からこのセッションを一緒に見よう」という計画を立てておけば、オンラインの「(ひとり)ぼっち参加」は回避できる。セッションを見ながら意見交換することもできるし、セッションが終わった後、レポートやサマリーを一緒に作ることにもつながるかも知れない。

もしセッションが番組編成表のようにスケジュール化されていて、ウェブ会議方式で実施されるのであれば、参加者の中に知人を見つけることもできるだろうが、ウェビナー形式になってしまったら他に誰が参加しているのかは知る由もない。VoDに至っては、完全に「ぼっち参加」だ。仕事の関係でレポートを作成しなければならないのであれば、ボッチ参加で集中してセッション動画を視聴するのもいいだろう。でもイベント参加の楽しみは「真面目なお勉強」だけではない。CESは全てのセッションがVoDだったが、ウェブ会議形式であれば、チャット欄を使って意見交換もできるし、1:1の会話もできる、名刺交換(もしくは自分の連絡先の提供)だってできるということを考えると、ウェブ会議形式にもメリットはありそうだ。


セレンディピティは、自分のレーダーで探知されなかった情報を拾い上げることから始まる。そして「これ凄いよ」という情報はいち早く知りたい。リアルのイベントなら、写真や動画が次々アップされるのでそれを追跡すれば良いが、オンラインで「これ凄いよ」はどのように共有されるのだろうか。スクリーンショットをインスタグラムやフェースブックに投稿するのだろうか。写真ならどんどん投稿したくなるが、スクリーンショットでも投稿したくなるものだろうか。ライブ演奏なら動画に撮影してソーシャルメディアに投稿したくなるが、オンラインだとデジタルコンテンツ著作権が気になる。


SXSWは元々、映画や音楽の祭典なので、オースチンの街中でアフター5に行われていたライブ演奏や映画の上映会もリアルなSXSWの楽しみの一つだった。街中を歩いているとそこここから聞こえてくるにぎやかな演奏に釣られて、ふらふらとそのレストランに入るなんてこともざらではなかった。オンラインになるとこういうエンターテイメントはどうなるのだろうか。プログラムとして公演スケジュールが発表されるのか、サプライズ的に動画で配信されるのか、今の時点ではまったくわからない。でもライブ演奏を肴に親しい友人たちとZoom飲み会をすることができたら、それはきっと楽しいだろうし、オンラインSXSWならではのリアルな体験にもなる。実はこれはぜひ今回のオンラインSXSWで体験したいと思っていることの一つだ。機会があったら声かけるからねとあらかじめ連絡しておけばおけば、ショートノーティスでもSXSWのエンターテイメント+Zoom飲み会のマッシュアップが実現できるのではないかと楽しみにしている。


「オンラインでセレンディピティは実現できるのか。」
企画者や主催者はいろいろと知恵を絞ってイベントの仕掛けを作っている。そこにセレンディピティは要件として考慮されているのだろうか。今回の私のSXSW参加は、イベントそのものよりも、セレンディピティとの出会いを追いかけることが目的になりそうだ。

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