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『「幸せ」をつかむ戦略』を読んで

「人は何のために生きるのか?」この問いに対する私の答えは「幸せを感じるため」である。そして自分の周りや一人でも多くの世界中の人たちが幸福を感じる社会を創りたいと、青臭くも心の底から思っている。そこで次に出てくる問いは、「幸せとは何か?」である。ある程度の持論は持っているものの、より思考を深めていくために本書を手に取った。

本書では、幸福感の根源にあるものは「自己決定/自主性(autonomy)」であると繰り返し主張されている。日本は生活水準の割には幸福度が低く(2022年幸福度ランキング54位)、北欧近辺の国々が高いとされているが、両者や他国に滞在してみて私的には納得いく結果である。日本では「(本当は異を唱えたいが)こう決まっているから」とか過去の慣習を踏襲する傾向が強くあると思っており、これはあるべき姿を考えることを放棄、すなわち目的なくして手段に固執している状態にあると言える。一方、私が北米や欧州で数年過ごして感じる大きな違いの一つは、彼らの主張力である。必要であればルールにチャレンジするし、日本に比べてよく口論を見かけるように思う。まさに生活のあらゆる場面で都度(少なくとも自分内のロジックで)何が正しいか思考・言語化し、主体性を発揮しているのである(見方を変えると秩序の欠如とも捉えられるので一長一短である)。
 
次に共感したのは、意味のある消費はものの価値・体験を高める、ということである。意味のある消費とは例えばプレゼントやストーリーであり、これらが値札以上、時に金銭価値で表現できない価値を与える。また、意味の創出者は必ずしもモノやサービスの提供者に限らず、自分がそのお店を支えているんだ、というような受給者起点の双方向になりうるものだとも語られている。確かに昨今のサステナビリティに対する関心を見るに、自分が他社/企業/社会にポジティブな影響を与えているんだというEngagementを感じられることは、自分自身の存在意義を高めることに繋がるのだろう。今では多くの企業が似たような取り組みをしているが、Appleは早い時期から「あなたのために一緒にものを作るのを手伝ってください」「私たちは皆、共通の目標のために一緒にいるのだから、参加してください。」というメッセージを消費者に投げかけ、自分のためにAppleが何かをしてくれた、と思わせるコミュニケーションを行い、アクションに対する意味を創出していた。
 
この物事に付随する意味の重要性は購買活動に閉じず、集団のモチベーション向上にも影響を与える。人間は努力に価値をつけたがるものである。もちろん企業のパフォーマンスを向上させるためには結果が全てであるが、企業を構成しているのは感情を持つ人間であることを忘れてはならない。従業員のモチベーションは長期的な企業のパフォーマンスに影響を与える。仕事上、AさんがBさんに何かを依頼したが、最終的にはAさんがBさんの作成物を利用しなかった、というシチュエーションは特に上司と部下の間でよく見られるだろう。しかし人は自分の仕事(努力)が無に帰した瞬間にモチベーションを大きく失う。もちろんその成果物を利用できない状況は発生するが、その際は必ずフィードバック(期待値、感謝、シチュエーションの説明等)をすべきだろう。何が人の幸福にポジティブ/ネガティブな影響を与えることを理解しておくことは、自身が幸福に近づくだけでなく、他者との良好な関係構築や健全な組織構築に繋がる。
 
これまで述べてきたモノやコトの意味、というのは外からは見えないため、積極的にコミュニケーションを行い、意図していない誤解を起こさないことが重要である。あるデザインポッドキャストで、プロダクトリーダーの一つの使命はプロダクトのミッション・ビジョンを定期的にコミュニケーションし、チームに仕事の意義を浸透させることだ、と述べていたのが印象的であった。当たり前すぎて誰も口にしないようなことでも敢えて明文化してみて、その言葉の真の意味や余白について議論してみるのも面白いかもしれない。そうして自分の行動に対して意味を明確にすることでより自己決定/自主性を持つことができ、幸福につながっていくのだと思う。別ブログで紹介した"How will you measure your life?"という問いへのヒントにもなるだろう。


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