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カレーライスで雑談

 50年ほど前までカレーライスはお母さんのつくる人気料理でした。 当時、小学生に一番人気だったのは間違いなくカレーライスでしたが、 その後カレーライスのポジションを奪いハンバーグやスパゲティが1位となりました。
 呼称については、当時「カレーライス」ではなく「ライスカレー」と呼ぶ人もいました。 最近はライスカレーという言葉は聞かれなくなり、殆どの人がカレーライス、あるいは単にカレーと言っています。
 本物のカレーに親しんだインド人は日本のカレーライスは本当のカレーではないと言うかもしれません。 確かに日本で食べるカレーと発祥の地インドでは味に大きな違いがあると思います。 日本のカレーはシチューに近いかもしれません。 かつて日本の小学校の給食では、カレーシチューと呼ばれる献立がよく出ていました。 ですが、それについてはまた別の機会にお話ししたいと思います。

 市販のカレールーが一般的になる前、日本の家庭では、高さ4センチほどの赤い缶に入ったカレー粉を、片栗粉や小麦粉と一緒に煮てお母さんがカレールーを作りました。 材料はジャガイモ、ニンジン、タマネギ、肉などです。 そして肉はほとんどの場合豚肉でした。 そしてある時、カレーはジャガイモなしの方が美味しいのではないかという噂が広まりました。 そしてしばらくカレーの具材からジャガイモが消えました。 野外で料理を作る時代には、カレーライスが定番メニューでした。その時はタブレットタイプのカレールーを使用しました。 そして、野菜を切って鍋に放り込み、徹底的に煮ました。

 ちなみに、カレーライスには必ず付いてくる付け合わせもあります。 福神漬けとらっきょうです。 福神漬けは、大根、ナス、ナタ豆、レンコン、キュウリ、シソの実、椎茸などの野菜を刻んで漬けたものです。 醤油、砂糖、みりんを合わせた調味液に漬け込んで作ります。 福神漬けは今ではカレーライスの付け合わせとしてしか食卓に登場しないように思えます。らっきょうは 白または紫色の鱗片状の食用球根です。 塩、甘酢、醤油などに漬けて保存すると、独特の強い香りとキレのある味が特徴として現れます。 販売されているらっきょうの加工食品は、みりん酢や砂糖漬けなどがほとんどです。 らっきょうの漬け物も徐々にカレーライスの付け合わせとして定着していきました。 らっきょう漬けといえば、今では誰もがカレーライスを想像します。

 更に日本のカレーライスに関するトリビアを紹介しましょう。それはその独特の食べ方です。 日本人は、カレーライスにウスターソースや醤油をかけて食べることがあります。 (今はそれほどメジャーではないかもしれません。)
 何十年か前、レストランでカレーライスはかなりの地位を占めていました。 とんかつとチキンライスがカレーライスと競いあっていました。昔はハンバーグやスパゲッティはそこまで人気はなかったと思います。 現在のカレーライスは、かつての勢いはなくなったものの、依然としてメニューの中で一定の地位と割合を占めています。 レストランやカレーショップではカレーライスのトッピングとして揚げ物が使われています。 とんかつ、コロッケ、メンチ、ハムカツが基本です。 特にカツカレー(カツをトッピングしたカレーライス)は、カレーライスを出す店ならどこでも見かけるでしょう。

 カレーライスはラーメンと同様に、徐々に静かに日本のソウルフードとして土着化していきました。 カレールーが日本の台所に入ってきた約50年ほど前に土着化が始まったのかもしれません。 カレールーは、カレー粉だけでなく、さまざまな食材や調味料のエッセンスを混ぜ合わせたものでタブレット状の固形物が多いです。これを お湯に溶かせば、そこそこの、もしくはとっても美味しいカレーが出来上がります。
 カレールーを使用する場合は、特別な材料を加えず、そのまま使用するのが一番美味しいようです。(もちろんカレー粉から丁寧に作られたカレーは、格別に美味しいです。 それは、料理に時間をかけて作ったものの方が美味しいと感じられるからでははないかと思います。)

 そして日本のカレーを語るうえで欠かせないのがレトルトカレー、つまり肉と野菜を煮込んだ調理済みのカレーをレトルトパウチに封入したものです。電子レンジやお湯で温めて食べるカレーです。 有名店の名前や、どこか懐かしさを感じさせる食べ物の名前が付けられて販売されています。 これらのカレーは非常に手の込んだ調理が施されています。 私の友人の一人は、お母さんの味に近いカレーを求めて旅に出て、最後に見つけたのは、安いレトルトカレーだったという話がありました。

 関西と関東ではカレーライスの食べ方が違うようです。 卵をトッピングした食べ方もその一例です。 関東ではゆで卵を使うのが一般的ですが、関西では生卵を使います。私は東京、つまり関東地方の出身です。 ある日、関西の大阪出身の友人の池田さんとランチに出かけました。 私たちは昼食にカレーライスを食べるつもりでした。 レストランのメニューに「エッグカレー」がありました。 我々はカウンターに座るとすぐにエッグカレーを注文しました。そして注文した後、池田氏はウェイトレスに「生卵を出してくれますよね?」と言いました 。カウンターの店員さんは驚いて「ゆで卵ですよ」と答えました。
「生のものはないんですか?」と池田さん。
ウェイトレスは「ゆで卵しかありませんね」と答えました。
「ああ、そうですか?」 池田は低い声でつぶやいた。 ふと、私は生粋の関西人である池田をちょっとからかいたくなった。
「関西の人はカレーのご飯に生卵をかけて混ぜるんですか?」
池田さんは「生卵とご飯を混ぜることもあるとは思いますが」と答えた。
私は「それでは、スプーンの背でご飯の表面を叩いて平らにしたりするんでしょ?」と続けました。
「―――――」
更に私は続けました。「それでは皆さん、その表面に十字の線を引くんですよね?」
「誰もそんなことはしないと思いますよ。多分…」 池田さんの顔は少し悲しそうな表情になりました。
「横線と縦線でできた四角い部分を切り取って食べるんですか? 」
「それお好み焼きのことを言っているのかな」と池田さんは少し怒ったようでした。 私はやりすぎたと感じて、話題を変えようとしました。
「今まで食べたカレーライスで一番美味しかったのは何ですか?」
池田さんは不機嫌だったが、しばらくすると話し始めた。
「小学生の頃に食べたカレーです。リンゴ一個とはちみつが溶けたカレーです」
「確かにおふくろの味ですね」
「私は辛味が苦手なんです」
「それでもカレーライスは好きですか?」
「カレーライスは好きですが、甘いものが好きです。」

 そこで私と池田氏はそのカレーの名前を当てるべくカレールーの名前を可能な限り挙げました。 カレールーだけではなく、お店の名前やレトルトカレーの名前まで挙げました。 池田さんはお母さんのカレーが一番おいしかったと話ました。 なのでそれはお母さんが作ってくれたものかと思ったら、お母さんが大好きだったレトルトカレーの名前でした。 母のカレーは実はレトルトカレーだったのですが、彼にとっては最高のものでした。 私は池田氏に同意しました。 店のマスターが少し顔をしかめたのが見えました。

(この文は日本の事物紹介web Picture Book of Japanに英語で掲載した内容を加筆訂正したものです。picturejapan.com



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