小説 心筋梗塞(3)

Day4 2022年5月27日(金曜日)

カテーテル検査、バルーンとステントによる血管拡張術から一夜明けたが、胸痛もなく、カテーテル挿入部の右手首の刺入点も止血している。
本当に1.5mmほどしか跡が残っていない。
現代の、というよりも、日本の医療レベルに関心した。
のちに、刺入点の傷跡を見た小学校時代の同級生が、

「これはかなり上手やぞ。俺の友達も同じカテーテル入れたけど、腫れてめちゃくちゃになってたぞ」

と言っていたので、すべての医師が上手ではないのであろう。
上手な先生に処置してもらって感謝しかない。

造影剤を排出しなければならないので排尿しなければならないのだが、寝たままの排尿なんて小学校の時の寝小便以来してないので、なかなか出ない。
しかし、なんとか姿勢を変えつつ排尿した。

この日は、75m歩行テストがあり、それにパスするとCCUから一般病棟へと移ることになる。
要は、一人でトイレまで行けるかどうかというテストのようだ。

今日の担当看護師さんは、昨日のタメ口柴田さん(仮名)ではなく、先輩・坂口さん(仮名)と後輩・山本さん(仮名)のペアだ。
どちらも20代のようだが、柴田さんと違って敬語が話せるので、Z世代で括るもんではないなと考えを改めた。

歩行テストはCCU内を往復して終わる。

ベッドが並んでいる前を看護師さんについてもらいながら、ゆっくりと歩くのだが、ここは4年前に父を看取った場所だ。

まだコロナ前だったので面会禁止もなく、家族で父を見送ってやることができて、ある意味幸せな最期だったと思う。

「4年前に、このベッドで父が亡くなったんです」

「えー、そうだったんですか」

(まだ、こっちに来るには早すぎるで)

そんな言葉とともに、危なかった僕を父が救ってくれたと思わずにいられなかった。

そんなことを看護師さんと話しながら75m歩行テストは無事終了し、4人部屋の一般病棟へと移されることになった。

当初は3週間ほどの入院かもと聞いていたが、経過良好なので、もしかしたら1週間ほどで退院できるかもしれないとのこと。

入って右側の窓際が、僕のベッド。
通路側にはやたらと声の大きい、わざとらしい敬語使いの、例えるなら石井光三のような話し方のお爺さん。
対角線上のベッドには、何度も入院を繰り返してる常連らしき60歳くらいのオヤジ。
何かと言い訳ばかりして看護師やドクターを困らせている。

こうして、人生初めての入院生活を迎えることとなった。



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