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お客様と従業員、どちらが大切か?

 「わたしと仕事、どっちが大事なのよ!」
 かつて、家庭を放ったらかしにして仕事に生きる男性に対して、妻や恋人が言う定番のセリフでした(昨今は、男性が女性に言うケースも増えているとか……)。

 ビジネス書を読むと、同じような設定がしばしば登場します。

「社員は褒めて伸ばすのか、叱って伸ばすのか?」
「“鬼”の社長であるべきか、“仏”の社長であるべきか?」
「トップダウンで決めるべきか、ボトムアップで決めるべきか?」……

 さらに、経営者があつまると、ときどき登場するテーマとして、こんなものがあります。

「お客様と従業員、どちらを大切にすべきか?」

 経営者のなかには「お客様第一主義」だという人もいれば、「いや、従業員あっての会社だから、従業員を大切にすべきだ」という人もいます。
 本日は、そんなテーマでまいります。

ブラック企業の見分け方

 本題に入る前に、こんなお話をしようと思います。
 私の会社はB2Bで、企業を相手にパンフレットやウェブサイトなどを企画・制作しています。業種・業態はさまざまで、これまで数多くの企業と接してきました。
 商談に向かう前には、必ず、その企業のことをインターネットで調べます。コーポレートサイトはもちろんですが、企業のことをわかりやすく伝えてくれる情報源として「就活サイト」があります。
 これは、新卒採用を行う企業が、大学生に向けて会社情報を発信する広告媒体。有名なものに、リクナビやマイナビがあります。これら就活サイトにエントリーしている企業なら、事業や理念、経営方針などが端的に示されていて、短時間にその企業の特徴を知ることができます。

 私はこの方法で、多くの企業の就活サイトを見てきたのですが、ひょんなことから、すごい事実を発見しました。それは、

「社風がいい」とPRしている会社の社風は、実際には悪い

ことです。これは肌感覚なので伝えにくいのですが、

  1. 企業を訪問したとき、従業員の表情が暗いし活気がない

  2. 担当者がしばしば離職する、異動になる

  3. 取材相手に選抜された従業員にもかかわらず、態度が横柄

  4. 上司が同席しているときと同席していないときで、担当者の態度が変わる

など、その兆候が見て取れるんです。
 事実、そういった企業は、進行している仕事なのに横やりが入ったり、ひどい場合には、発注後にキャンセルになったりします。また、入社1年目の新卒社員が大量退職するとか、社内ハラスメントの話を耳にする、あるいは経営陣が詐欺で訴えられるとか、案外、予感が的中することが多いんです。

 リクナビに「当社の創業経営者はやさしく、よく社員におやつを配ってくれるんです」と書いてあったのに、実際、その経営者にお会いすると、私たちを業者扱いして、下に見るような御仁だったこともありました。

 そんなことがあったので、私の会社では新卒の採用説明会のとき、こんなことを学生たちに伝えています。

「今日はみなさんにお土産があります。『ブラック企業の見分け方』です。
 リクナビやマイナビに、『社風がいい』と掲載している会社には
 気をつけてください」

 そもそも、よく考えれば、ことさらに「社風がいい」というのは不自然です。なぜなら、本当に社風がいい企業は、現状が「いい社風」なので、それが「いい」か「悪い」かなど、考えたこともないはずだからです。

従業員を大切にするための、組織活性化とは

 「私はお客様よりも、従業員を大切にしている」と堂々と発言する経営者は多い気もしますが、ひょっとしたら、実際には大切にしていないからこそ、ことさらに、そう発言している場合だってあるはずです。こう発言したほうが、従業員を味方につけやすいからです。

 ところで、チームが一丸となるために、組織の診断・分析コンサルティング、理念経営に向けたCI構築、企業ブランディングなど、「従業員が一丸となるための組織づくり」を重視する経営者も少なくありません。

 実は私自身、昨年に従業員から提案を受け、会社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や新たな会社ロゴ、評価制度などを外部のコンサルタントに支援してもらって策定しました。
 まだ十分に機能しているとはいえないため、その成果は定かではありませんが、「立派な理念ができたとしても、組織自体が大きく変わることはないかも……」と半信半疑なのが本音です。

 ただ、理念づくりをふくむ企業ブランディングの活動を経て、私自身が成長できたのは事実。それは、理念やロゴを刷新したということよりも、この活動の中で、自分自身をふり返るきっかけになったこと。常に5~6名の従業員を中心としたプロジェクトだったので、従業員の本音も聞けたし、経営者と従業員の立場のちがいも再確認することができた。これは、意外にも大きな収穫でした。

 何か新しい取り組みをしたからといって、簡単に「組織活性化」なんて実現するわけはありません。
 やはり、経営者が考える戦略とか、正しい姿勢とか、地道な事業活動の結果、たまたまふり返ってみると、組織が元気になっていた、という感じなのではないかと思います。

結論。大切なのは、お客様か従業員か。

 営業 > 商品 > 組織 > 財務
 53%  27%  13%  7%

 中小企業に役立つ「ランチェスター経営」で有名な竹田陽一さんによれば、オペレーションズ・リサーチという方法で経営を分析すると、経営資源のウェイト付けは、上のようになるそうです。つまり、

  • 優良なお客様を見つけて、商談を増やす

  • 利益の出る商品・サービスを開発して差別化する

 この2つの活動で、事業の8割が決まってしまうということです。
 一方、組織づくりの活動、つまり社内調整の仕事は、たった13%。この中には従業員満足とか、組織活性化がふくまれます。

 当然ですが、企業が成り立つ前提として、お客様の存在は絶対です。
 そもそも、お客様がいなければ、従業員を雇うことはできないからです。

 ですから、従業員に心地よく働いてもらうには、それより前に、お客様を心地よくしてあげることが欠かせません。

まず、お客様を大切に、大切に、大切にすること。
その結果、商品が売れ、お客様が増えれば、
結果として、従業員を大切にしたことになる。
先に従業員を大切にしようとすると、
商品は売れず、お客様も増えないので、
従業員を大切にすることができなくなる。

 つまり、私の結論。

「従業員よりも、お客様を大切にせよ。
 その結果、従業員を大切にすることができる」

 経営者たる者。
 歯を食いしばって、従業員を大切にしたい誘惑に耐えましょう!

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