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5 カルルシュテイン城、クシヴォクラート城 そしてティージョフ城址(文化)

菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)

ボヘミアの王たちは、ぼくと同じような審美眼を持っていた。ベロウンカ川を選び出し、そこにカルルシュテイン城やクシヴォクラート城を建てたのだ。(「戦後、プロシェクさんのところで」より、p.67)
クシヴォクラートの森は鬱蒼と生い茂り、恐れている人たちもいる。知らぬ間に、弓をたずさえて馬に乗った盗賊たちが、ティージョフの廃城から現れたっておかしくない。(「白いヤマドリタケ」より、p.33)

カルルシュテイン城(Hrad Karlštejn)といえば、チェコに残存する城の中で、プラハ城に次いで有名な城だろう。鉄道を利用すれば、プラハから南西に30分ほどの移動でカルルシュテインの小さな町に着く。その駅から30分ほど歩いたところにある小高い丘にたつのが、1348年に神聖ローマ皇帝カレル4世によって築城されたゴシック様式のカルルシュテイン城である。

カルルシュテイン城

〈カルルシュテイン城〉

この城は財宝や聖遺物、そして戴冠式で用いられる宝物の保管場所や別荘として使用されてきた。16世紀半ばのルネサンス様式での再建、19世紀末から20世紀初頭にかけてのゴシック様式への復元を経て現在に至る。プラハから近いこともあり、今ではチェコ内外から観光客が押し寄せる有数の観光地であり、また結婚式の場としても利用されている。カルルシュテインからその周辺の森をめぐり歩く散策路もある。この散策路は比較的平坦なので、時間に余裕のある方は挑戦してみるのもよいだろう。

カルルシュテインからの散策道表示

〈カルルシュテイン城裏の散策路の道しるべ〉

クシヴォクラート城(Hrad Křivoklát)は、チェコでも最も歴史のある城のひとつであり、築城は1230年にまでさかのぼる。城は幾度も火事に見舞われ、現在に至る形を得たのは、1471年の再建後である。クシヴォクラート駅で下車して城へと続く丘を登ると、ほどなくして丘の頂上に赤い三角屋根と白い壁が見えてくる。多くの有名なチェコの領主たちがこの壮麗な城を住処としてきており、神聖ローマ皇帝カレル4世も幼少時をこの城で過ごした。

クシヴォクラート城-1

〈クシヴォクラート城〉

城内にはチャペル、図書館、刑務所、拷問室などがあり、16世紀にハプスブルク家の支配下にあったときには、刑務所として利用されていたこともあった。

クシヴォクラート城-2

〈クシヴォクラート城のロンデル窓〉

ティージョフ城址(Týřov)は13世紀にヴァーツラフ1世によりベロウンカ川を見下ろす丘の上に建築されたカステルム様式の城郭跡である。優れた立地条件により、15世紀のフス戦争においても破られることのない要塞であったが、16世紀には荒廃した。現在ではいくつかの石組みが残り、自由に見学できる。ただし、自己責任のもとで、である。城址にたどり着くまでの山道には滑りやすい斜面もあり、足を滑らせれば川まで遮るものなく転落すること間違いなし、また城址はいつ崩落してもおかしくない状態である。しかし、歴史に名を遺す城郭を間近で感じられる魅力は大きい。

ティージョフ城址-1

〈ティージョフ城址〉

ティージョフ城址-2

〈ティージョフ城址の石組み〉

チェコでは室内が保存され見学できるようになっている城が多くあるが、そのようにきちんと管理されている場合、入城はガイドツアー参加でのみ、ということがほとんどである。つまり、日本のように、自分のペースで自由に見て回ることはできない。ガイドの若いお姉さん(が多い気がする)が立て板に水で唱える説明を聞きつつ、定められた人数のグループで城内の要所要所を巡る。各部屋に入る直前にガイドが鍵を開け、次の部屋に移動するとすぐさま前の部屋の鍵を閉めるので、抜け駆けはできず、残ってじっくり見ることもかなわない。大きな城であれば、英語のガイドツアーもある。ただ、言語により、ツアー開始時刻が異なるので、城を訪れるときには前もって調べておく必要がある。

日本人が心しておかないといけないのは、たとえチケットを購入していても、ツアーが始まるときにしかるべき場所にいなければ、容赦なくおいていかれることだ。日本でよくあるように「○○時のツアーが始まります!参加者はこちらへ集まってください!まもなく出発しますよ!」などという親切な声掛けは、ほぼありえないので、開始時刻が近づいたら、集合場所(出発場所)に陣取って、目を光らせてガイドを待ち構えておかねばならない。友達とおしゃべりをしている場合ではない。もちろん、おいていかれたためツアーに参加できなかったからといって、チケット代の返金など願うべくもない。

それに加えて、もう一点、チケットを購入するときには、あらかじめ小銭を準備しておこう。180コルナのチケットを買うのに2000コルナ札など出すと、「(釣銭がないから)無理!」とにべなく断られることもある。

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