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1 ビールは樽で(酒)

菅寿美

おやじは素早く考えをめぐらせた。彼らにハーフサイズのビール樽をごちそうしてやろうかしら。しかし、でっかい樽を一樽飲ませたって、連中を止めさせることなどできなさそうだとわかった。
               (「プンプルデントリフ」より、p.133)

ビールといえば、チェコである。それはなぜか?

第一に、チェコはピルスナービールの発祥の地なのだ。

ビールは発酵方法の違いで、二種類に大別できる。上面発酵のエールと下面発酵のラガーだ。ピルスナーは下面発酵で製造されるので、ラガータイプのひとつであり、色が淡く、すっきりした飲み応えが特徴的だ。日本で最も馴染みのある金色のビール、あれはピルスナースタイルのビールであり、そのピルスナースタイルの発祥の地こそ、チェコのプルゼニュという町なのである。プルゼニュはドイツ語ではピルゼンと呼ばれ、「ピルゼンのビール」ということで「ピルスナー」と呼ばれるようになった。日本ではピルスナータイプがビールの9割以上のシェアを占めているそうだ。これはもう、こと日本に関しては、ビールと言えばチェコと言っても、あながち間違いではなかろう。ちなみに、こちらも有名なビールの銘柄、バドワイザーも、もとはと言えば、チェコのチェスケー・ブディョヴィツェという町で作られているビール、ブドヴァルである。

ビールと言えばチェコである第二の理由は、国民一人当たりの年間ビール消費量が世界一位なのがダントツでチェコだからである。

これは1993年から26年間連続で破られていない記録であり、2018年は一人当たり191.8リットルであった(2019年、キリンホールディングス調べ)。国民一人当たり、つまり絶対に飲まないであろう新生児からよぼよぼのおじいちゃん(いや、おじいちゃんはどれだけよぼよぼでも飲むかな?)まで頭数に入れて押しなべて、この消費量である。実際の消費者数で割ったら、いったい一人当たりどれだけ飲んでいることになるのだろう。ちなみに、2位はオーストリア、3位はドイツであり、それぞれ107.6リットル、101.1リットルであるので、チェコの数字がどれだけ抜きんでているかがわかる。日本は40.2リットルであった。

ちなみに、冒頭の“ハーフサイズのビール樽”とは約30リットル、“でっかい樽”なら50リットルだ。もしも“連中”が10人で飲んでいたなら、すでに飲んでいる“連中”にさらに一人当たり3から5リットルずつご馳走しようかしらという算段だっことになる。いやはや…。

チェコビールの樽

それだけ飲んでいれば、いくらアルコール分解能力の高めなヨーロッパ人であろうと、問題は生じる。アルコール依存症、糖尿病、肥満などだ。若い人の中には、子供のころに体験した両親親族のアルコール問題から、自分は酒は一滴も飲まないと決意する人もいるようだ。またアルコールの中でも、苦みの強いビールが特に飲まれなくなっているとも噂に聞いた。日本でそのようなニュースを聞いたことはあったが、あのビール大国のチェコでもか、とちょっと驚いた。

チェコのビール文化は諸文化と密接に関わりあっている。できることならば健康とうまく共存して続いていってほしい。

ところで、ビール大国チェコでは各地にビールのご当地銘柄があり、400以上の種類があるともいわれている。醸造所(pivovar)も多い。プラハの居酒屋は契約している醸造所の銘柄を提供するのだが、居酒屋の中には自前の醸造所を持ち、出来立てビールを出している店もあるので、観光で訪れた際に試してみるのも楽しい。

最後に、比較的有名なビール銘柄を筆者の独断と偏見で挙げておく。

<プラハで飲める銘柄>
・プラズドロイ(Prazdroj):“ピルスナー・ウルケル”の名で日本でも輸入販売されている。プルゼニュのビール。ピルスナーの王道銘柄であり、甘みも苦みも強め。日本でも樽生が飲める居酒屋もある。

プラズドロイ-1

・ブドヴァル(Budvar):チェスケー・ブディョヴィツェのビール。爽快な味わい。日本でもプラズドロイに並び輸入販売されているので、見かける機会が多い。

ブドヴァル

・ガンブリヌス(Gambrinus):お値段控えめ、味はさっぱりめでバランス良し。

・コゼル(Kozel):甘口で香ばしい香りあり。女性に人気あり。

・スタロプラメン(Staropramen):スミーホフ(Smíchov)に工場があるプラハのビール。やや辛口。

・ブラニーク(Braník):プラハのビール。さっぱりとした飲み口。

・ベルナルド(Bernard)フンポレツのビール。伝統的な製法にこだわったビール。

ベルナルト

・バカラーシュ(Bakalář):ラコヴニークのビール。個人的にお勧め。

<地方で出会えるビール>
・スヴィヤヌィ(Svijany):リベレツのスヴィヤヌィのビール。香り・のど越し良かった記憶あり。

スヴィヤヌィ

・ダレシツェ(Dalešice):ダレシツェのビール。ダレシツェのほか、ブルノ近郊で飲める。コクあり、個人的にお勧め。

ダレシツェ

・スタロブルノ(Starobrno):ブルノのビール。チェコ人の間でも好き嫌いがわかれるようだ。これぞチェコビールと一押しする日本人もいる。

・オボラ(Obora):ターボルのビール。甘みが強めで苦みは控えめ。

〈さらにビールを!〉

・ポリチカ

ポリチカ

・ペガス

ペガス

・ホドヴァル

ホドヴァル

・ぺルンシュテイン

ぺルンシュテイン




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