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24. 深紅のグリオトカ(酒)

菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)


「おやじは腰かけ、グリオトカの大きなグラスを注文した。それは、おやじがちょくちょく飲むことのできる、唯一のアルコールであった。おやじがそれを好んでいたのは、一つにはそれがおしゃぶり飴のように甘いからであり、そしてもう一つには、それが彼に、生まれ故郷であるブシュチェフラットの町の学校裏にあったサクランボ果樹園を思い起こさせるからだった」
(「プンプルデントリフ」より、p.132)

グリオトカ(griotka)とはサクランボのリキュールである。フランス語でサワーチェリーをグリオットというが、グリオトカの名前はそれに由来するのだそうだ。蒸留酒(ラムやウォッカ)にサクランボと砂糖を漬け込んで作られる。市販品もあるが、家庭でも気軽に作れるようで、いわば日本の梅酒のようなものだろうか。香りは甘く、味も実際にかなり甘い。赤い色(ものによっては天然色素で、物によってはどぎつい赤だったりする)がひときわ目を引く。ポルトガルの甘いサクランボ酒、ジンジャに似た味わいだと評されてもいる。

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チェコではバニラアイスクリームにグリオトカを垂らして食べることがある。グリオトカをひとかけするだけで、アイスクリームがワンランクグレードアップ。白いアイスクリームと赤いグリオトカのコントラストが目にも鮮やかな、サクランボ香るおしゃれデザートになる。

チェコの居酒屋では、ホット・グリオトカなる飲み物もある。ラムのお湯割りにグリオトカで風味づけしたものらしい。サクランボのリキュールはチェコに限らず世界各地で愛されており、例えば有名なカクテル、シンガポール・スリングや日本発祥のカクテル、チェリーブロッサムに用いられている。色も香りも存在感のあるサクランボのリキュールは、カクテルによく合いそうだ。

しかし、おやじのようにグリオトカをグラスになみなみと注いで飲むのは、あまりお勧めしない。かき氷シロップのように、甘ったるいのだから。



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