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11 野原で魚釣り:チェコと洪水(自然)

菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)

チェコには山(hora、ホラ)らしき山がほとんどない。もちろん、山という単語が存在し、「ビーラー・ホラ(Bílá hora)」「ゼレナー・ホラ(Zelená hora)」のように「ホラ」のつく地名もあるのだから、全く山地がないわけではないのだが、最高峰のスニェシュカ山でも1602メートルであるので、日本に比べると、ずっと平坦な国である。

中央ボヘミアの風景

(中央ボヘミアの風景)

その国に、いくつかの大きな川が流れている。チェコ最長の河川はヴルタヴァ川(Vltava)である。ヴルタヴァ川はドイツ語ではモルダウ川と呼ばれ、この名前は、日本でも多くの人がご存じであろう。ラべ川(Labe、エルベ川)の上流となる大河川である。また西部にはベロウンカ川(Berounka)が流れ、東部にはオドラ川(Odra、オーデル川)、南部にはルジュニツェ川(Lužnice)が流れる。

プラハを流れるヴルタヴァ川

(プラハを流れるヴルタヴァ川)

典型的な田舎の川

(クシヴォクラートを流れるベロウンカ川)

ターボルを流れるルジュニツェ川

(ターボルを流れるルジュニツェ川)

平たい国土に広大な流域を持つ大河川が流れていると、しばしば洪水に見舞われることとなる。ヨーロッパの河川は水源から河口までの標高差が日本よりも小さく、そのため流れが緩やかな傾向がある。これは洪水の特徴にも影響を与える。日本では豪雨ののち、急激な増水により、あっという間に河川が氾濫する。それに対して、ヨーロッパでは、ゆっくりと氾濫が進行し、一度浸水してしまうと、なかなか水がひかない。春先の雪解け水による洪水が起きやすいのも、ヨーロッパの洪水の特徴だそうだ。チェコでは、首都プラハがかかわる大きな洪水だけを挙げてみても、1784年、1845年、1890年、2002年、2013年と繰り返し災害が発生している。プラハ近郊はさておき、少し田舎に行くと、河川は護岸工事をしていない。そのため、少し川の水位が上がると、流域はみるみるうちに水浸しとなる。

2002年の大洪水では、ベロウンカ川もベロウンの町で氾濫した。町の中央にある広場は、川よりも数メートルも高台にあるにもかかわらず、建物の一階半ばまで水没したそうで、博物館の展示品を上層階に運び上げたりと、大変だったようだ。

「鯉だ。でっかい鯉だ。水没した湿原で餌を食い、サーカスみたいに逆立ちして、尾びれを小旗のように振っているんだ。竿を出せ!」
(「のっぽのホンザ」より、p.87)



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