7 緑の怪紳士、その名はカッパ?(文化)
菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)
チェコの水辺には、妖怪ヴォドニーク(vodník)がいる。vodník のvod の部分はvoda、つまり「水」の意味であるので、水辺の妖怪、水妖とでもいうべき存在である。
日本語に訳すときにはしばしば「カッパ」があてられる。確かに両者とも水辺の妖怪だ。ヴォドニークはしりこだまを抜きはしないけれど、若い女性をさらう。人間の魂を奪って壺の中にためていくのが趣味らしい。水辺にやってくる人間に悪さをするという点では、日本のカッパと同類だ。妖としての本質をとらえてざっくりと言い替える場合には、カッパが良いかもしれない。
ただ、このヴォドニーク、日本のカッパとは見た目が大きく異なる。あの、裸の体に甲羅を背負い、頭には皿を載せた緑色のいたずらっ子、とはまったく違う。
まず燕尾服を着用している。帽子もかぶっている(ワラ製であることが多いそうだが)。そして髭を生やして、パイプをくわえている。紳士なのだ。ただし、基本的に、服装は緑色づくめだ。しかも、ずぶぬれ紳士なので、近寄るのはちょっとためらわれる。燕尾服の裾が水で濡れている間は元気だが、乾いてしまうと力を失ってしまうそうだ。キュウリは食べず、甲羅や頭の皿もない。したがって、見た目を重視する場合には、「カッパ」と呼んでしまうのはためらわれる。
(チェコの水妖(カッパ)/菅寿美 画)
ヴォドニークは馬や魚、カエル、あるいは生物以外にだって化けることができる。ヴォドニークが化けた馬に誤って荷車を繋ぐと、そのまま水中に沈められてしまうそうなので注意が必要だ。リーコ(lýko)という木の樹皮の下にある繊維で作られた縄で縛ったり叩いたりすれば、その魔力を失ってしまう。
小島には、うっとりするほど美しい、長い緑色の水草が生えており、それは川に住む水の妖怪、オスカルの解き放たれた髪の毛のようだった。
(「黒いパイク」より、p.12)
このときようやく、ぼくは鯉を検分することができた。あごひげをまるで水の妖怪のようにはやしているが、おなじみのパイプだけは持っていない。
(「ドロウハー・ミーレ」より、p.61)
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