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逞しく生きてきちんと成り上がる(週報_2019_04_13)

今月から夜勤バイトに並行して、在宅ワークを始めた。

単発で様々な夜勤のバイトをし、夜のお店で知り合った金融・不動産業のおじさんに与えられた仕事だ。
ちなみに夜の商売はまったく自分の肌に合わなかった。
簡潔に説明すると金出すに値しないブスだからです、へへへ…(もう笑うしかない)

全身ハイブランドで固めたおじさんを初めて見たときから、あ!ヤ○ザだ!と思ったし、声を聞いてほらヤ○ザだ!と思ったし、職業を聞いたらガラッガラの声で金貸しだと言うのでやっぱりヤ○ザだ!と思った(やめなさい)

地方に生まれ施設で育ち、十代でプロボクサーを目指して上京したものの背中の彫り物のせいでプロになれなかったというその人は、同じく施設にいた経験があると話した私のことを初対面で非常に気にかけてくれた。

パソコンは使えるか、と聞かれたので、ネットをする分には不自由はないがエクセルは使えない、となんのスキルのないことを正直に話す。
それでも充分だから、と後日経営する不動産事務所に呼ばれ、事務所の若いスタッフさんに2時間くらいかけて丁寧に作業を教わった。
その間、不動産ヤ○ザはブラブラと気まぐれに顔を出してはその様子を満足そうに眺めていた。

いくつもやっている会社のほとんどを、同じ施設で育った友人たちを家族ごと東京に呼び寄せ、任せているという。
今では認知症になってしまった母親のことを、月に数回自宅に一時帰宅させ介護しているそうだ。

「金貸しだけど、自分より弱い者を泣かしたことはないよ」

不動産ヤ○ザがにこやかにそう言ったとき、こりゃ自分より強い者はだいぶ泣かしてんなぁと思った。
っていうか、泣かしたくらいで済んでればいいんだけど、これだけの財を成すからには人には言えないいろいろがあったんだろう、きっと。
立ち振る舞いこそ紳士だけれど、不動産ヤ○ザのガラッガラの声は他人をたくさん怒鳴ってきたからそこまで潰れているんでしょう?

不動産ヤ○ザの事務所には先日も派手なヤンママが2歳くらいの子供を連れて研修に来ていた。
あの子らもみんなホステスから拾ってきた女かな、とニヤニヤしていた。

お金はいっぱいあるのに、それをばら撒きじゃなく仕事を与えてちゃんと知恵をつけさせようとするその姿勢は尊敬に値するし、仕事を手伝わせることで自身の会社の売り上げに繋げようしているところは商魂逞しく、やはりこの人は”きちんと成り上がってきた”人なんだなと思う。

本当だったら私も自分の正体(文章を書いている人間だということ)を明かして、彼がいろいろな意味での肉体労働者から頭脳労働者になった転機についてを聞き出したくて仕方ないが、今はそれどころでない。
とにかく私は現金が欲しいのだ。

ネット上に不動産情報を掲載して、私の載せたものが契約成立すれば仲介手数料の何割かが私の給与になる。
つまり完全歩合制なので、1件でも契約がとれなければ給与はゼロ。

そのため『何月何日 何時間 何件』の仕事をした、という記録は残しているので、成約を出せた時点で時給換算し、何時間までの在宅ワークが適正かは常に探っていこうと思っている。
私は自由度が高くなると利益を度外視して根を詰めすぎる傾向があるからだ。

実際、ヤンママたちが徐々に慣れ、サイト上に掲載を始めると私の負けず嫌いに火がついてしまった。
彼女たちが1件掲載する間に、何件掲載できるか。
毎夜ろくに小説も書かずに(おい)全ての神経を不動産情報の収集に集約した結果、私の作業スピードはメキメキ上がり、昨夜はヤンママ3件に対して私は18件と圧倒的勝利した。

仕方ない、だって私はブスなんだもん。
圧倒的ブスなんだもん。
仕事くらいできなかったら生きていけないんですよ。
ヤンママがもし本当にホステスならホステスで充分食える容姿なんだから、ここは私に譲っていただきたいわけで。

それはそうと、不動産ヤ○ザの事務所ソファーにはエルメスのクッションが3個も4個も転がっていて、帰り道ググってみたらカバーだけで普通に1つ15万くらいしたのでその日めちゃくちゃ小さいランチトートで研修に行ったことを深く後悔した。

あれ毎月1つ貰えたら転売して一ヶ月生きていけるんですけど、と思いメル○リで『エルメス クッションカバー』で検索したら、クッションカバーそのものは出品されていなかった。

そのかわり検索に引っかかったのはエルメスのスカーフを「クッションカバーリメイクにどうぞ!」とか、バッグやら大物商品を買ったときについてくる保存袋を『クッションカバーリメイクに(略)』という貧乏くさいものばかりで、こちらの商魂逞しさにも1人ニヤニヤと笑ってしまった。

いや、どっちかというと、どっちかと言わなくても私はこっち側の人間だから、ただいま!みたいな安心感はあった。
みんな生きてくのに一生懸命!

在宅ワークを始めて半月経過を待たずに、不動産ヤ○ザからは「サイトに問い合わせが来たら俺の名前の入った定型文で返信しておいて」と新しい仕事を貰う。
まだ売り上げには結びついていないものの、仕事の処理スピードだけは認められたのだったらとても誇らしい。

「お手当て、あげるから」

ほんとかな~?期待しちゃうよ~?頼みますよ~?
LINEで送られた定型文をパソコンに保存する。

「必ず売り上げに結び付けるからね、そしたらお祝いしよう」

・・・そうなんだ。
薄々、いや、重々、勘付いてはいたんだけれど、この不動産ヤ○ザ、ちょいちょい抱こうとしてくる。

「今度おそろいのマフラー買おう」「ご馳走するよ」「うちに泊まりに来ればいいんだよ」

うん、私、おじさんのこと尊敬できる部分がたくさんあるから、今の関係がいいんだよ。
分不相応なブランド品なんていらないんだ、だって薄汚いスウェット短パンにマフラーだけシャネルなんてどこから見たっておかしいでしょう?

私はちゃんとあなたの売り上げに貢献できる、歯車になれるように頑張るよ。
そしたらその働きに見合う報酬だけ、ください。

きっとお金はいっぱいあるけど、あなたは孤独なんだな。
どこかに大きな穴が開いていて、それをお金以外の力で埋めたいんだと思う。

でもね、だとしたら私では力不足だよ。
ヤンママたちより顔も身なりも不細工で、家が貧乏で親が病気で、一見純朴そうな私を消去法で選んだのかもしれないけれど、私が一番不純で、一番お金目当てなんだから。

それに気付かないなんて、おじさんが本当は私なんて好きではないことを証明しちゃってる。
私はわかるよ?自分のが好きな人が、自分のことを見ていなかったら、すぐわかるから。

抱きたいなら劣情でいいんだよ、純愛装うなんてクソ食らえ、やらせろ!って言えばいい、そしたらやーだよ!って言って笑うから。
在宅で頑張るけど、事務所には極力呼ばないで。
次はおっきなリュックで行って、ご自慢のエルメスのクッション、ぜーんぶ盗んじゃうんだからね。

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