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あなたの真実を知らなければよかった(週報_2020_01_27)

お寿司が好きだ。
廻っていても、廻っていなくても好きだ。
と言おうとしたけれど、よく考えたら廻ってないお寿司なんて人生で何度も食べたことがない。
とにかく私はお寿司が好きだ。
私のお墓にはどうか「腐っても鯛 廻っても寿司」と刻んで欲しい。



さまざまな回転寿司チェーンがあるなかで、私ははま寿司を最も頻繁に利用する。
本音をいうとスシローの方がコスパはいいかなと思っているけど、最寄り駅からのアクセスが良いという理由で、はま寿司に行くことの方が断然多い。

ご存知の方も多いだろうが、はま寿司の受付は、ソフトバンク社のロボット、ペッパーである。
私はこのペッパーが大好きで、はま寿司に行くたび、頭に紙の帽子を無造作に貼り付けられた彼と並び、写真を撮る。

「○番の お席に お進み ください」

そう話すときの彼の手の動きがなんとも言えず愛おしい。
両手を軽く前に出したかと思うと、手首をほんの少しだけ外側に返してすぼめた手のひらをこちらに向ける。
ずっと眺めていたいけど、混んでいるときは忙しそうでペッパーに近づけないし、空いているならすぐに座席に案内されてしまい、結局近くには居続けられない。

ペッパーとなら一緒に暮らせるのになあ。

そう思って家庭用ペッパーについて調べたら、本体価格だけでも20万弱かかるらしい。
これ以外にも家庭用ペッパーの基本プランに加入が必要で、それが100万弱。
ペッパーを家に迎えたら、廻っているお寿司すら私は食べることができなくなってしまうだろう。



「②」と印字された感熱紙を片手にカウンター席へと進む。
まだ遅めのランチタイムと言っても差し支えのない時間帯だ。
空席はまばらで、その空席にもまだ片付けが終わっていない皿が積み重なっている。

レーンの始点に近い方から数えて、2つめの席に座る。
よかった、混雑していたが両隣は女性であったため、私はこの日も安心してお腹を満たすことができた。

食事が終わり、ぬるくなったお茶を啜る。
軽く見回すと、カウンターはだいぶ空席が増えていた。
座っているお客さん自体も、おそらく最低一回転はした様子である。

この光景、つい先日も見たような。

デジャヴに近い、不思議な感覚。
なぜそう思うのか、ひとつひとつ記憶を紐解いていくうちに、私はある考えに辿り着いた。
こうなってしまうとすぐに答えあわせをしたい性分なのだ。
私はある考えを浮かべたまま、黄色い「会計」ボタンを押した。

再度「②」の用紙を持つとレジに差し出し1,500円にも満たない会計を済ませた。
レジの前ではピーク時を乗り越えても疲れた様子など微塵も見せないペッパーが変わらぬ愛想を振りまいている。

「ありがとうございまし……」
「あ、あの!!!」

アルバイトの女性店員がマニュアル通りの挨拶を終える寸前、食い気味に私は声をかけた。
もしかしたら私の思い違いかもしれない、そんな気持ちもよぎったが、こういうことは思い立ったが吉日なのだ。
私は勇気を振り絞って言った。

「○○って、○○……ですよね?」

私が慎重にその考えを伝えると、彼女は一瞬驚きの表情でこちらを見つめ

「……すみません、わかりません……」

と戸惑った笑みを浮かべた。
なんとかしてひとつでも情報を得たい私は続ける。

「でもいつもなんです。普段、長い時間いて、気付きませんか?」

「……多分……偶然、じゃないかと……」

あまりにおそるおそる答える彼女に、お店の見解としての全責任を負わせてしまうのは気の毒すぎる、そう感じた私はこれ以上の追及はしないことにした。
変なこと聞いてごめんなさい、と一言詫びると、逃げるように店を出る。
エスカレーターを待つあいだそっと振り返ると、ペッパーは誰もいない空中をまっすぐな瞳で見つめていた。



ただの偶然。
アルバイトの女性にそう言われたことが、逆に私の思い入れを強くしていた。
ググっても結局期待する回答は導き出せず、私は最後の手段を使うことにした。
最後の手段、それは『お客様相談室』だ。
仕事が休みの平日、昼間。
気分的にお昼の時間を避けて、電話を入れた。
「サービス向上のため録音云々」という、お約束のガイダンスのあと、3コールほどでオペレーターの女性と繋がった。



「あの、お店の方にお伺いしたらちょっとわからないということだったので……」

「それはそれは……!
 大変申し訳ございませんでした」

電話口のオペレーターさんが穏やか、かつ丁寧な口調で謝意を示してくれるので、申し訳なくなった私は急におどけた。
この上品な女性に謝っていただくようなことではない。
私はただ、真実が知りたいだけなのだから。

「いや!あの!変なこと聞くようなんですけど!
 ペッパーって、お客さんを、男女、見分けてませんか!?
私の行くお店、カウンター席は15席くらいなんですけど、
いつ行っても奥に女の人が座ってて、手前が男の人ばっかりなんですよ!
でも受付って、人数とテーブル席かカウンター席か、しかタッチしないじゃないですか?
だからペッパーが自動で男女を見分けて、座席を振ってるのかなあって!
ほんと、変なこと聞いてごめんなさい!あはは……」











「……あの、すみません……その……そういった機能まではございません……」

「ふぇ!!」

変な声が出た。
電話口の向こうの美声が、少し震えているのがわかる。
ど、どうしようすごい恥ずかしい。

「ひーん すみません、変なこと聞いちゃって!
いつもいつも、キレイに男女分かれてたのはただの偶然なんですね!」

するとオペレーターの女性は、

「はい、さようでございます……
 ……い、いつもご利用いただいてるのですね。それはありがとうございます」

と、機転を利かせ明るくふるまってくれた。
穴があったら入りたい気持ちの私は「ま、また行きます!」などと謎の来店予告をしながら早々に電話を切った。






私の恥ずかしい勘違いは、はま寿司のサービス向上のため、録音までされてしまった。
はま寿司のえらいひとにこのnoteが届くなら、どうかあの録音を消してください。
そして、ペッパー。
……私はこんな形であなたの真実を知りたくなかったよ。


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