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世界最速の「白鳥おどり」2 インバウンド誘致のため活用

 徹夜おどり開幕直前の13日夕、郡上市白鳥町の白鳥おどり体験施設「世栄」で初の講習会があり、観光客ら約40人が集まった。施設はインバウンド(訪日外国人観光客)の誘致を目指し、今年秋以降に本格稼働する。中部縦貫自動車道福井~岐阜県間の工事が大詰めを迎える中。白鳥おどりを活用して新たな人の流れを呼び込む動きが加速している。
 体験施設は長良川近くの道の駅「清流の里しろとり」にある。壁面は踊り会場の写真で埋め尽くされ、映像を流す大型モニターも設置されている。講習会では、白鳥踊り保存会のベテランが、正調おどりを手ほどきした。

白鳥おどりを学ぶ人たち

 施設は地元の観光関係者らでつくる「白鳥振興プロジェクト委員会」が整備した。遠藤正史会長(白鳥観光協会長)は「台湾、タイなどのお客さんを呼び寄せたい、体験がきっかけになり、白鳥おどりの本番にも参加してもらえれば」と期待する。
 インバウンドの客足はコロナ禍で落ち込んだが、現在は回復している。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、岐阜県の外国人延べ宿泊者数は今年3月に13万9560人を記録し、3月単月としては過去最高となった。
 白鳥町に隣接する高鷲町のテーマパーク「ひるがの高原牧歌の里」には、雪遊びが楽しめる冬場を中心に年間3万人を超えるインバウンドが訪れる。名古屋方面から高山、白川郷、金沢といった有名観光地に向かう団体客が多く、夏場も増加している。
 「郡上おどり」は常時、八幡町の郡上八幡博覧館で上演され、人気を呼んでいる。予約制とはいえ、白鳥おどりが学べる「世栄」が誕生した意味は大きい。インバウンドはただ観光地を回るだけでなく、日本でしかできない体験を求める傾向がある。牧歌の里の牧野靖史営業担当は「白鳥町の観光振興を図る上で、世栄は大きな武器になる」とみる。

建設が進む中部縦貫自動車道

 中部縦貫自動車道は、福井市の北陸自動車道と白鳥町の東海北陸自動車道を結ぶ。開通すれば、白鳥は北陸と中京圏をつなぐ交通の結節点となる。ただの通過点としないためには、観光客を高速道路下りさせる戦略が必要だ。
 日本三大踊りに数えられる「郡上おどり」は昨年約30万人を動員したが、知名度で劣る白鳥おどりは約3万人にとどまった。白鳥町には長良川あゆパークや阿弥陀ケ滝、スキー場といった観光資源が多いだけに、交通網整備の波及効果を最大限に生かしたいところだ。
 今年4月に就任した山川弘保郡上市長は「北陸や関西から誘客するプロモーション活動を充実させ、インバウンドもターゲットにする。世栄で白鳥おどりの臨場感を味わっていただくことで、ファンを獲得したい」と話している。元中日新聞白鳥通信部記者・中山道雄 (8月16日付け中日新聞中濃版に掲載)

中部縦貫自動車道 長野県松本市を起点に、郡上市を経由して福井市に至る総延長約160㌔の高速道路。福井~岐阜県間は約73㌔で、九頭竜~油坂間の15・5㌔を残して完成している。2016年の開通を目指すが、工事区間の一部の作業に遅れが出ている。

白山信仰の白鳥。奥美濃の静かな町にどうぞ

 岐阜県郡上市白鳥町は、福井県境にある情緒にあふれた町だ。町の中心部を長良川が流れ、白山に連なる山々が見える。下呂温泉で有名な下呂市や高山市と隣接しており、交通の便が良い。
 白鳥はかつて、白山信仰の拠点として栄え、平安時代には登拝者の拠点となる「美濃馬場」が置かれた。白鳥おどりのルーツとなった拝殿踊りは、登拝者や修験者がもたらした歌念仏、唱歌などが基になって成立した。
 白鳥町には3カ所のスキー場や日本滝百選の阿弥陀ケ滝、白山長滝神社など見所が多い。長良川鉄道の美濃白鳥駅もあり、1日あれば見て回れる。


白鳥町中心部を流れる長良川。釣り人が多い


白鳥踊りの像。白鳥町のシンボル

 白鳥町の人口は約1万人ほど。普段は静かな町だが、白鳥おどりがある夏は一気に活気づく。徹夜おどりのにぎわいを見ると、「この町のどこにこれだけの人がいたのか」と驚くほどだ。
 長良川はアユの友釣りを楽しむ人たちで混雑している。東海北陸自動車道が通っているため、県外から訪れる人たちが多い。
 今年は猛暑続きで、白鳥も日中は暑い。それでも、夜になると県境の山から風が吹いてきて、気温が下がる。
 徹夜踊りは終わっても、踊りそのものは9月まで続く。ぜひ一度、白鳥に足を運んでほしい。高山のような有名観光地ではないが、この土地にはよそにはない不思議な魅力がある。

昼間は人通りが少ない中心街
夜は踊り会場となる


踊り屋台を囲んで踊る人たち






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