真夏の車中泊 高速道路のオアシスを探そう!
年々暑くなる日本の夏。気温38度だとか40度とか言われると、外出するのも億劫になる。できれば家で涼んでいたいところだが、今年のお盆は岐阜県郡上市での取材のため往復1200㌔の移動を余儀なくされた。こうなると、一気に走るのはつらい。行きと帰りに車中泊をはさみ、高速道路で夜を明かした。真夏の車中泊で快適に過ごすには何が必要なのか。ちょっとしたコツを紹介する。
私はこれまで20年以上も車中泊を続けてきた。もともと旅行が大好きなのだが、趣味の狩猟で使役している猟犬を連れていかねばならない。北海道から九州まで全国を回るうち、車中泊は軽く400回を超えた。今年の春も、妻と愛犬マイヤーとともに、1カ月の車中泊旅行をした。
現在使用している「走るホテル」は、トヨタのノア・ハイブリッドである。以前はニッサン・エクストレイルを2台乗り継いだが、この車種は屋根が低いという欠点があった。車内の圧迫感が気になり、2年前にノアを購入した。
8月12日夕、高知県須崎市の自宅を出発した。今回は仕事目的とあって、1人きりで運転する。カーナビによれば、到着まで9時間ほどだが、灼熱の高速道路を真昼間に走るのは避けたい。日が暮れた後で、ゆっくりと走ることにした。
トンネルだらけの高知自動車道を抜け、瀬戸大橋を渡って岡山に入る。お盆休みだから、交通量が多い。気温もなかなか下がらず、兵庫県に着いたところで休むことにした。
泊まるなら小さなパーキングエリア
高速道路で車中泊をするなら、小規模なパーキングエリア(PA)をお勧めする。店舗や各種の施設が充実したサービスエリア(SA)は便利だが、車の出入りが多い。混雑した駐車場で居座るのは気がひけるし、なにより静かに過ごすことができない。隣の車がドアを開け閉めすれば、バンという音が響く。深夜になると、かなり気になってしまう。
私は旅行をする度、できるだけ利用者が少ない施設を探してきた。今回選んだのは姫路市にある山陽自動車道「白鳥PA」である。狙い通り、駐車場はガラガラだ。ドライバーの多くは大規模なサービスエリアに集中しているようだ。
駐車はできるだけ遠くに
私はパーキングエリアで車中泊をする際、できるだけ施設中心部から離れた駐車場に車を入れる。トイレや自動販売機に近い場所は、どうしても混雑する。
もともと、車中泊は公式に認められているわけではなく、あくまでも短時間の「仮眠」扱いなのだ。他のドライバーの迷惑にならないよう、あえて一番不便な場所で過ごしたい。
駐車位置を決める時には、地面の傾斜にも注意してほしい。駐車場は排水のため、必ず傾斜がある。車が極端に傾けば、いざ寝ようとしても体が落ち着かない。車がほぼ水平であり、寝た時に頭の側が低くなっていなければ合格だ。
あとは、大型トラックの駐車スペースに近づきすぎないこと。プロドライバーはディーゼルエンジンをかけたまま仮眠するため、場所によっては音が耳についてしまうのだ。
車中泊はベッドが命
私がホテル代わりに使っているノアは、仮設ベッド以外に特別な装備はない。狭い車内にいろいろな物があふれれば、寝るどころではなくなってくる。極端なことを言えば、ベッドさえあればいい。
逆に言えば、ベッドだけは金をかけるべきだ。私は当初、自作を考えたが、自らの不器用さから早々にあきらめた。市販の車中泊ベッドは8万円ほどと高価だったが、さすがにしっかりしている。
スチール製の土台部分を組み立て、上にクッションを並べれば出来上がり。大人2人と犬が横になっても、ビクともしない。そこに、ニトリで手に入れた分厚いクッションを敷けば、長さ約2㍍、幅約1・4㍍の寝床が整う。
装備は必要最低限に
私のノアには、後部座席の左右とリアウィンドウにニトリ製のカーテンが設置してある。車内の壁のすき間に金具を入れ、カーテンを通す木製ポールを固定しただけの簡素な造りだが、実用上の問題はない。
後部座席と運転席は、左右に張り渡したひもにカーテンを通して隔ててある。24時間照明が消えないパーキングエリアでは、いかに車内を暗くできるかが安眠につながる。
車内にはこのほか、折り畳み式の小さなテーブルと小型扇風機が置いてある。車内灯は使わず、市販の充電式ライトを付けてある。土台部分の青い部品は、折れたノコギリの一部を両面テープで張り付けたもの。ランプの裏面には磁石が付いており、一発で固定できる。
ノアの仮設ベッドは、クッションをたたんだ状態だと、天井まで85㌢ほどのすき間がある。足を伸ばして座ると、まるで居間にいるようにくつろげる。フリップダウンのモニターを下げれば、テレビやDVDを楽しむこともできる。
私はビールを飲みながら、車中でウダウダするのが好きだ。冷えたビールを確保するため、車にはクーラーボックスを常備している。
カーエアコンはよほど暑くない限り使わない。ハイブリッド車だと、充電が必要になるとエンジンがかかり、その時の車体の動揺で目が覚める。騒音の問題もある。短パンとTシャツ、ビールで体を冷やし、必要なら扇風機をつける。これだけで、何とかなる。
車中泊を始めたころは、シュラフだマットだランタンだと、ずいぶん余分な物を購入した。流行りのポータブル電源も調達したが、気が付いてみれば、ほとんど使わない。寝具にしても、窮屈なシュラフより使い慣れた布団の方がずっといい。
車中泊はある意味、スピードが命だ。寝る準備や後片付けに時間をかけていては、本来の旅の目的が果たせない。最低限の装備を選び、効率よく利用できれば、それで十分である。
白鳥パーキングエリアは山間部にあり、夜は一気に涼しくなった。これならエアコンはいらない。窓を全開にしてエンジンを止め、風を感じながら眠った。蚊に襲われないよう、全身に虫よけスプレーを吹き付ける。運転の疲れとビールの酔いで、気持ちよく爆睡した。
車中泊はやめられない
車中泊の旅は、時間に縛られない自由がある。宿の心配は最初からなく、疲れたらそのまま泊まればいい。
高速道路、道の駅、海岸、河原、高原、森林、キャンプ場。これまでの車中泊を振り返ると、楽しい思い出ばかりが蘇る。
しかし、車中泊する側のマナーが悪ければ、泊まる場所がなくなってしまう。北海道の道の駅では、釣り目的の長期滞在者が多いことから「車中泊禁止」となった。東北の道の駅を訪ねた時は、トイレの洗面台で食器を洗う不届き者に遭遇した。
日本のどこに行こうが、車中泊は仮眠名目で「黙認」されていることを忘れてはならない。ごみの持ち帰りは当然だし、施設を汚す行為は許されない。安心して車中泊ができるよう、意識を高めていきたいものだ。
お盆の取材を終えた後、私は帰り道に香川県のパーキングエリアで2回目の車中泊をした。
今度は夜になっても気温が下がらず、寝苦しい。いつも通りに虫よけスプレーを噴射したが、しぶとい蚊に刺されまくった。
それでも、旅先で迎えた朝はさわやかだった。やっぱり車中泊はやめられない。