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ゆりかもめとごほうびサウナ~竹芝【前編】

用事はないけどゆりかもめ

2022年7月上旬、ベイサイドホテルアジュール竹芝(東京都港区)に1泊した。今の会社に半年勤めた自分へのご褒美である。

アジュール竹芝に宿泊する目的は、もちろんサウナだ。時間や帰りの足を気にせずサウナに入れる。部屋でビールを飲んで、そのままバタンキューできる。我ながら夢のような企画だと思う。

会社の最寄り駅・有楽町から竹芝へ行くには、2つのルートが考えられる。

1つ目は、山手線で新橋まで出て、ゆりかもめで2駅。2つ目は、有楽町線で豊洲まで行き、ゆりかもめに乗り換えるルート。後者はかなり遠回りだ。

私はゆりかもめに乗りたかった。

特段用事はない。ただただゆりかもめを楽しみたい。いっぱい乗りたい。普段と違うことをしてみたい。夜のゆりかもめに乗ってみたい。

1つ目のルートは、たしかに手っ取り早い。ナ○タイムならまずこのルートが提示されるだろう。しかし、ゆりかもめに乗れるのはたったの2駅だ。それでは乗車時間が短すぎる。物足りない。鉄分が足りない。

私は2つ目のルートで竹芝へ向かうことにした。

夜のジェットコースター

定時退社後、有楽町線に乗った。豊洲行きの電車は帰宅時間というのにたいした混雑ではなかった。

終点でゆりかもめに乗り換える。豊洲はゆりかもめの始発駅。この時間、豊洲から乗る人は少ない。おそらく私は今、人の流れに逆行しているのだ。遠慮なく、一番前の展望席に座った。

ゆりかもめには何度も乗ってはいるが、それはたいてい同人誌即売会からの帰路だ。満員の車内からは、車窓の風景はなかなか楽しめない。というか、即売会帰りではそんな余裕もない。

今は乗客も多くない。大きな荷物を抱えているわけでもない。しかも週末で、これからサウナ付きのホテルに泊まろうという余裕ぶりだ。ひとりでゆっくり、夜の湾岸エリアの車窓を楽しむことができる。

ところがこのゆりかもめ、出発してみると全然「ゆっくり」ではなかった。最前列に座っているせいだろうか、体感では恐ろしく速い。走り出しからものすごい加速だ。めちゃくちゃ速い。ジェットコースターかこれは。

何度も乗っているはずなのに。今まで気づかなかったが、アップダウンも激しい。これも最前列に座って初めてよくわかった。

「ヴィイイイイイイイーーーーー」
上り坂での加速音が、足裏に響く。

たまらない。軽自動車で激坂を上るとき、アクセルをベタ踏みしている感覚だ。今こいつは、ゆりかもめは、がんばっている。踏ん張っている。がんばれ、ゆりかもめ。

27分間のアトラクション

時計は午後7時を回っていた。暗くなりかけの紺色の空に、湾岸高速を走る車の無数の明かりが映える。

ゆりかもめの車窓から

国際展示場前にさしかかる。ぬるい光でライトアップされたビッグサイトは、どこかSFっぽい。年に2回は見ているはずなのに、見慣れない姿をしていた。

テレコムセンターから、ぱらぱらと人が乗ってきた。ここで働く人たちだろう。彼らにとってこのゆりかもめは「日常」だ。

お台場、お台場海浜公園では、この列車を「非日常」とする人たちーー観光客が乗ってきた。車内が一気に賑やかになる。これが、世間一般がイメージする「ゆりかもめ」の姿かもしれない。

満員の乗客を乗せたゆりかもめが、闇に光の輪を描く。観光路線としての見せ場だ。

暗い中でループ線を旋回すると、方向感覚がちょっとおかしくなる。あれ、お台場の球体はどっちだったかしら、と車窓の風景を確認したくなる。

こんなに集中して鉄道に乗ったのは、鉄道を楽しんだのは、いつ以来だろう。通勤電車でそんな余裕はないし、乗り鉄もコロナ禍で休んでいた。

乗りたい時、乗りたい列車に、ゆっくり乗る。鉄道だけに集中して楽しむなんて、本当に久しぶりだった。

鉄道に乗るときは、用事があってはだめだ。用事があると鉄道は単なる「移動手段」になってしまう。いやむしろ「鉄道が用事」だ。私はゆりかもめに用があって乗ったのだ。ゆりかもめを「楽しいアトラクション」として選んだのだ。

豊洲から27分間のアトラクションを終え、竹芝駅に降り立った。下車したのは、私を含めて数えるほどだった。

竹芝駅のホーム

さあ、次のアトラクションーーサウナに行こうか。<続>

夜の竹芝駅

《2022年7月の情報です》

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