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釣果で幸福感は決まらない

ヤリイカは今が旬だ。取引先のお客様が、イカ墨スパゲッティーを作っていたので、ちょっと調べてみたら、ヤリイカの寿命は1年前後だという。今の時期は、ぽってりと成長して食べ応えがある。

火を加えても硬く縮こまらないので、加熱料理でも美味しく食べられるそうだ。

当然のことながら、一番美味しくいただけるのは、一つの命につき一回...そう思うと命の大切さ、命をいただくありがたさ、旬をいただける贅沢さが身に染みてくる。

実は、私自身はそんなにイカが好きではないのだけれど、家族がイカ好きで、刺身には必ずイカを入れる。


感染症の自粛がきっかけで、オットは釣りにはまり一年が経とうとしている。イカを狙っているらしい。冬の時期に何回か大人の手のひらから手首を軽く越す大きさのイカを釣ってきた。と思ったら、師匠がくれたという。


いつの間にか浜辺で師匠ができたようだ。


もらいっぱなしは悪いね、と、お返しに何がいいのか相談を受けた。真冬だったので、携帯カイロか、それとも何枚あってもいいマスクか悩んだ末、黒いマスクを持っていったようだ。しかも、「嫁さんから」と、つい、言ってしまったという。


「なんか、恥ずかしくなっちゃってさ、つい言っちゃった」


その日から、浜辺での私の株は上がった....


クーラーボックスが空っぽの日と、空っぽじゃない日があり、その割合は大体半々なのだが、何か入っている日は、大概師匠からのお裾分けだ。


最近、師匠つながりで、Sさんという知り合いがもう一人増えたらしい。彼からいただいたのは、鮎の稚魚。「あいつにあげてやってくれ」と、師匠が声がけしてくれたそうだ。鮎も鰻のように、稚魚の時に海水から川へ登っていく魚だ。あまり大量に取りすぎないように、釣り師の間では暗黙の了解がある、と思いたい..


Sさんに教えてもらった通りに、麺棒で軽く叩いて腹を潰し、粉をまぶして唐揚げにする。海塩をふり、アツアツをいただく。お腹を潰しておけば、油の中で弾けることがなく火傷の心配がない。

揚げたてを頭から丸ごといただく。お腹の部分の苦味がほんのりと良いアクセントになって、箸が止まらない美味しさだ。これこそ、今の生活がなければ一生に一度食べずに終わっていただろう。


感染症が流行り始めて先が見えなかった頃、恐怖を抱きながらも毎日通勤していたオットに、「もう、仕事やめていいよ。好きなことをして生きな。」と私は言った。


「よし決めた、釣りをやる。」

仕事はやめたわけではない。休日の釣り師となった。


ドアを開けた時の足取りと声で、大概「今日の収穫」が想像できる。こう言っちゃなんだが、驚くほど釣れなくて、彼の釣果で私たちのお腹はなかなか満たされない。こんなに釣れなくて嫌にならないのかと見ているけれど、当の本人はとっても楽しそうだ。


人は大好きなことに出会うと、結果だけが幸福感を左右しないようだ。しかも、大好きなことをしながら人は、そばにいる者までも幸せにすることができるのだ。




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