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スキー場の嫁

と、言うと。
バリバリのスキーヤーかスノーボーダーだと思われるけど、全くそんな事ない。

だって、私は自転車乗れない位に運動音痴だし。
なんなら、スポーツ全般苦手だし、むしろ嫌い。

寒い日はコタツに入って携帯でゲームしたり、本読んだり、映画見てる方がいいじゃん。

キャンプ?
なんでわざわざ虫刺されに行くの?

海?プール?
ムダ毛処理面倒臭い。
こんな弛んだ腹を見せれるか!

ランニング?
なんでわざわざ汗かきに行くのよ。

とにかく、家でダラダラするのが大好きな「うんこ製造機」として生きていきたいのが私。

そんな私がまさか恐羅漢スノーパークへ嫁ぐなんてね。
そんな私がスノーボードに挑戦するなんてね。

安芸太田町へ移住し、再婚をし、6回目の冬。
しかも、シーズン終わり間近になり、私は仲の良いお客さんに99%無理矢理スノーボードを履かされた。

いや、むり、立てない。
滑るじゃん!
寒い。
怖い。
寒い。
滑る。
怖い。

だから、立てないってば!!!

客寄せパンダ如くお客さん達は携帯を私に向けて笑うのよ。
いや、仲良くても「お客さん」だから笑って「怖いぃ~」なんて言うけど、心の中の私はガチで「ギャーーーー!!!!無理無理無理無理無理!!!!!」状態。

ほんと、いや、むり、こわい、しぬ、こわい

そんなこんなでシーズンが終わり、翌シーズン。
お金持ちプレゼント大好きなお客さんからブーツやらウェアやらなんやらかんやらとプレゼントされ、ついに私は自ら生まれて初めて自分にスポーツ用品であるスノーボードを楽天でポチった。

20-21シーズン。
4年近く続いた暖冬を乗り越え久々の雪に恵まれたシーズン。

私はスノーボード検定3級を取得するまでにスノーボードを頑張った。
まじで頑張った。
雨の降る中正座で先生の指導を聞き。
大雪の中、裸眼で雪を受け止め。
カチカチのバーンで頭や臀を強打し。

人生で1番スポーツを頑張った。

「恐羅漢の嫁なのに滑れない」

なんて、「カゲグチ」は何度も耳に入ってた。
だからなにさ。
滑れないのがそんなに悪いことなのか。
あぁん?
じゃぁ、てめーは生まれた時から滑れてたのかよ!
あぁん?

と、言いたいけど、我慢してた。
いや、言っても良かったのかも。

恐羅漢の嫁だからって、姑も舅も「こうであれ」「こうしなさい」「こうじゃなきゃ」なんて一言も言われたことが無い。
「恐羅漢の仕事を手伝え」なんて事も言われたことが無い。
最高の義両親。

だから、言っても良かったのかも。

暖冬が続いている時、社長も支配人もゲッソリしてた。
可哀想なくらいに。
メールやTwitter、DMで解決できない苦情を何度も受けた。
周辺のスキー場はどんどんと看板を下ろして行った。
社長は金策に明け暮れた。
支配人はいつスキー場が開いてもいいように場内の整備をしていた。

私はひたすら苦情のメールに対応していた。

4年近く続いた暖冬。

嫁の私にできるのは、苦情文字の返信とTwitterの更新。

私は意を決した。

客寄せパンダになってもいい。
笑われてもいい。
だから、1人でも恐羅漢と私のファンを作ろう。

シングルマザーの私を受け入れてくれた夫の為にも。
暖冬が続いてもシーズン券を買ってくれるお客さんの為にも。
来てくれるお客さんの為にも。

なにより、恐羅漢つぶれたら「おまんま食えなくなる」
自分達の為にも!

と、綺麗に書いたけど。
「いや、まじ、恐羅漢つぶれたらムスコの大学進学困るやん…」

が、1番の本音だと思う。

20-21シーズン。
先程書いたように、まじで頑張った。

何が凄いって。
自宅から恐羅漢まで雪が無ければ25分、雪があり悪路で1時間って所の場所に住んでるのに。
恐羅漢ロッジの駐車場で何度も車泊した程に頑張った。

ただ、残念なのはシーズンアウトの理由が春ではなく、私が自宅の階段から落ちて左脛にヒビが入った事により意図せずシーズンアウトとなった事だ。

兎にも角にも、もう、「恐羅漢の嫁のくせに滑れない」とは言わせない。
私はなんとか滑れるまでに達した。
1人でリフトも乗れる。
降りる時80%転げるけど。
1番高いコースからは、まだ怖くて「滑る」よりも「転がり降りる」って感じだけど。

それでも、私はなんとか「滑れる」の言葉の「骨」部分までには行けたような気がする。

だから、「恐羅漢の嫁は滑れない」なんて、もう言わないで欲しい。
「恐羅漢の嫁はかろうじて滑れる」と言って頂きたい。

頑張ったんだもん。
本当に。
だから、「カゲグチ」を少しだけ変えて欲しい。

まだ決まってないけど、多分もう2ヶ月もすれば21-22シーズンのシーズン券販売が開始される。
今までと違って、雪山のことを何も知らない「恐羅漢の嫁」ではない。

初めて滑る時の恐怖、リフトの上での寒さ、降りる時の緊張感、滑り出しの不安感、降りてきた時の安堵感、山頂から見る景色の美しさを知る「恐羅漢の嫁」になった。


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