見出し画像

1002/1096 誰も信じない話⑦

吾輩は怠け者である。しかしこの怠け者は、毎日何かを継続できる自分になりたいと夢見てしまった。夢見てしまったからには、己の夢を叶えようと決めた。3年間・1096日の毎日投稿を自分に誓って、今日で1002日。
※本題の前に、まずは怠け者が『毎日投稿』に挑戦するにあたっての日々の心境をレポートしています。その下の点線以下が本日の話題です

1002日目。慣れない…ここに4桁の数字を書くことにまだ慣れない。もう二年以上も3桁の数字を書いてきてしまったから、それにすっかり慣れてしまったのだ。

1000日に達したときに96日しかなかった残り日数から、もう2日も削られてしまった。まさにカウントダウンが始まった実感が強い。

多くのお方から、1000日頑張ったねーと言っていただくのだけれども、それを本当にありがたいと思いつつも、もっともっと長い間、お仕事をされている方、お父さんお母さんをされている方、がんばって受験勉強をされている方、みなさんのほうがずっとずっと、すごいと思う。

自分も見習って、自分の本領に力を注ごうぞよ!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※この物語の人物名は架空のものであり、物語の詳細もフィクションです
筆者の記憶をもとに、そこからインスピレーションを得て書いています

たとえば夜のコンビニで、足を引きずるようにしてビールを買うスーツの男性を見れば、仕事で疲れきったサラリーマンのおじさんなのだろうと思う。昼間のデパートで、ひらひらのミニスカートをはいて前髪を内側に巻いた女の子を見れば、どこにでもいる可愛いもの好きな女性なのだと思う。

もしかしたらそれらの判断は、まったくの的外れなのかも知れない。おじさんはこれまで一度もサラリーマンをしたことがなくて、普段は鳶職のお仕事をしていて、その日はたまたま結婚の挨拶をしにはじめてスーツを着て相手の女性の実家に出向いてご両親に挨拶をして、緊張してへとへとになっただけなのかも知れない。女の子はもしかしたら性転換をした男性で、普段はさっぱりした格好をしているのだけれども、今日は性転換ができたことをお祝いする日で、友だちを驚かしたくて可愛い服装をしているのかも知れない。

けれども、疲れたサラリーマンのおじさんだ、可愛いもの好きな女の子だ、という判断をすることで、わたしは勝手に彼らをわかった気になって安心しているのだ。自分の想定の範囲内にある、遭遇率の高いものだと考えることで、その場にくつろいでしまう。

今わたしは穂苅さんについて、その想定内の安心をものすごい速さでサーチしている。この奇妙奇天烈な話をしてわたしと二人きりでいるこの人に、彼の仕草からでもいい、雰囲気からでもいい、声や表情や部屋の様子からでもいいから、点と点を結んで、どうにか安心のかたちを見い出せないかと探っている。

しかしそれができる前に、わたしはその場を取り繕うことにした。

「わたしも、ですか…??」

穂苅さんは、そこでまた想定外の、わたしの初めて見る顔をした。ふう、と鼻で短くため息をついて、それからびっくりするくらい困った顔をして、子どもを見るような目をしてこちらを見たのだ。

「ごめんね。誘拐した上に、お話にまで巻き込んじゃって」

これで何度目だろう。穂苅さんのその残念そうな諦めきったような達観したようななにかが、わたしの心に安心の灯りをつけた。そのなにかは、わたしを騙そうとしている人間からあふれるものではなかった。だからこうしてそれを見るたびに、立ち消えかけた火種が、何度も思い出したように明るく燃えた。わたしは目が覚めたようになった。

彼のその幼子に謝るような、父性たっぷりにみえる優しい目線を見たとき、わたしの目にくるっと水の膜ができた。わたしは不用意にも、涙をこぼしかけた。理由はもちろん、このお話と穂苅さんの様子のはずだ。でも、いったいわたしはどうして、いったいそれのなにに、泣きそうになったのだろう。

疑ったり信じたりを忙しく行ったり来たりしているわたしを見守るようにしながら、彼は相変わらず、落ち着いたままだった。

穂苅さんが、どうにも超えられない川の向こう岸にいる。彼は孤独に違いなかった。そして、それに苦しんでもいなかった。こちらを憐れむような、こちらとは反対の岸にいるのが、他の誰でもなく自分で良かったというような顔でこちらを見ている。

「…ねえ。俺って、辛気臭い?」
「へっ?」
「誘拐犯は、誘拐犯らしくしないとな」

拍子抜けして、思わず涙目を閉じてしまった。しまった、と思ったら涙がほろっとこぼれた。わたしはハッとして下を見てごまかした。

「捕虜が泣いてしまった」
彼はそう言ってすぐに立って、ティッシュではなくてハンカチを持ってきて差し出してくれた。

「…男物ですが」

受け取ろうとしてそろりと手を出そうとすると、彼はわたしの顔をそのハンカチでパタッと覆った。そして笑顔で戻りながら「洗ってありますよ」と言った。わたしは慌てながら、ははっと笑ってしまった。なぜ泣いたのか、訊かれなくてよかった。彼が人の涙に少しも動揺しないことに内心少し驚きながらも、そのさりげなさが心地よかった。

わたしは、さきほど変な宗教の勧誘だろうかなどと思った自分の心を、申し訳なく、残念に思った。穂苅さんはきっと、こんな死後の話などを訊かせたら、他人から奇異の目で見られることくらいわかっているはずだ。わかっていて、わたしに話してくれているのだ。わたしがおかしな人だと思う可能性があることくらい、もちろん知っていて話している。彼がそれでもそこに臆せずに話してくれているのに、わたしはずっとビビりっぱなしだ。

わたしはそんな失礼な自分でいるのが嫌になった。もうこの話に好奇心全開で心を開こう。ウジウジしたりビビったりしながら聴くのはやめよう。

「もういろいろと訊きたいことだらけなんですけど、穂苅さんは死ぬ前に戻って、それからどうしたんですか」

「ん?君はこの誘拐に協力するのか?それじゃあぜんぶ話すまで捕虜のままになっちゃうぞ」

穂苅さんは優しい。冗談ではあるけれど、あくまでもこの話は誘拐犯が勝手にこちらの身を拘束して強制的に聴かせているという体で話してくれている。

「いいです、捕虜で」

そう言って、わたしは気がついた。さっき涙が出たのは、この話のせいだけじゃないし、穂苅さんの様子だけのせいじゃない。わたしが穂苅さんを慕ってしまっているせいだ。だからなにかが落ち着かず、どこか恐れ知らずになってしまっていて、穂苅さんが優しいと甘えたい気持ちがびっくりするくらい膨らんで、それらをごまかすのがとても難しいからだ。

ストン、と音がしたかと思うほど、それを認めたことで気が抜けた。目の前にいる人は、穂苅さんは、わたしの”好きな人”なんだ。怪しい話をする、変なおじさんで、でも自分はこの人を好きなんだ。本当はさっきからずっと彼に惹かれていたんだ。今は、好きな人の大切な話を聴いているんだから、聴けることをありがたく楽しもう。今は彼の家にいて、二人きりで彼の話が聴けるのだから。それはなんだか、どうしてかとても幸せなことだという気がする。とても貴重なことだったと、あとから思う気がする。

「死ぬ前に戻ったときの気持ちって、どう言ったらいいのか…こういうのを話すのが一番むずかしいね。俺は死んだあとに味わったことを覚えていたから、死ぬ前に戻ったと言っても、別人になった気分でさ」

「それはきっと、そうですよね…」

汗を拭くために借りたタオルが手元にある。これで口元を覆わなくては聴いていられなかったほんの少し前の自分が、今のわたしにも別人に思える。

「でもちゃんと人並みに嬉しかったんだよ。とりあえず、あの喧嘩には乗らないで、生き延びたよ。それまで俺は喧嘩をしていないと生きられないくらい荒れてたんだけど、本当にそんなことはどうでも良くなってさ。まあ、今も俺はこうして捕虜を自宅に閉じ込めている犯人なんだけどね」

穂苅さんが過去に喧嘩ばかりしているほど荒れていたというのには、なんとなく違和感がない。彼にはやっぱりどこか、Vシネマに出てくるガラの悪い人と共通したものがある。

「悪い男に捕えられていることを嘆かないように」
「フフ、大丈夫です」

彼はときどきこうしてふざけてくれる。けれどもそれは、わたしの気をほぐそうとするためというよりも、彼にとって自然なことのようだった。

「でもあの喧嘩を避けても、結局ずっと同じようなことが起こるわけ。俺が許せない間は、どうしてもそうなっちゃうのよね」

は…同じようなこと?そうなっちゃう?それはどういう意味?穂苅さんは、結局喧嘩をしてしまうの?そして、結局死んでしまうの…?それから、ずっと、とはどういうこと??何度もそうなっているってことなの?!

「でも、穂苅さんは今生きていますよね?それは、もう、その…”許した”からなんですか?!もう、この先は、大丈夫なんですよね?!」

訊いてすぐに思った。「許した」とは何のことなのか。自分を殺した相手のことだろうか。それとも、その喧嘩の原因となったことだろうか。
それとも…

そこで、思いつきたくもなかったことが思いついてしまった。わたしの頭に、良くないことが浮かんだ。そんな残酷な。いや、きっと、それはいくらなんでも考えすぎだ。わたしがちょっと哲学的に考えすぎてしまっただけだ…

あまり変な想像はしないでおこう。とにかく穂苅さんの話を聴こう。人は、思ったことがそのまま現れる世界にいる、、、穂苅さんが今ここにいることは、穂苅さんがそう思っているからなのだろうか。わたしがそう思っているからなのだろうか。そして彼はなにを、許さなくてはならないのだろう…

ーつづくー

【リライズニュースさんにインタビュー記事が掲載されています】

https://rerise-news.com/self-growth/kan_michie_tanjyu/?fbclid=IwAR1S7t0WF1aw_inudTS552xvKwdHJRm36JuPk-zO3Em92WIaG4Z39GrUkA4

【秘行についてはこちらからどうぞ】



毎日無料で書いておりますが、お布施を送っていただくと本当に喜びます。愛と感謝の念を送りつけます。(笑)