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全てを捨てた受験生の休日〈ほったらかし温泉で朝ごはん〉


中央本線

 朝、始発に乗って高尾駅に来た。

 今日は春がようやく本腰を入れだした3月28日。関東山地に向けてトンネルを穿つ中央本線の関東平野最後の駅、高尾駅では世界最大の都市・東京の市街地もようやく尽きかけ、自然の匂いがする夜風が吹いている。時刻は午前5時を周り、少し寒いが既に東の空は青くなり始め、太陽の昇る予感が始まっている。

 さて、列車を乗り換える。5:15発、大月行き。いつも乗ってる通勤電車と同じ車両だ。しかし、毎朝の車窓とは違い、列車は山の中へ入っていく。小仏峠を抜けるとそこは神奈川県。丹沢山地の北側、相模湖が広がる。ここで少し僕の推しスポットこと相模湖の紹介をば。
 相模湖は東京西部に住んでいれば結構気軽に来られる上、都会の喧騒に疲れた社会の歯車の方々には新鮮な田舎が広がっている。相模ダムに堰き止められて水を湛える相模湖は季節ごとに美しい風景を見せてくれる上、観光地化もあまりなされていないため、ゆっくりするには最適の場所だ。かくいう僕も自然を求めてたまに訪れる、おすすめだ。


 列車は甲州街道に沿って西へ、上野原駅から山梨県に入る。谷間を縫って進み、駅で扉を開くたびに、山あいの涼しい空気が刺すよう入ってくる。日の出は既に迎えただろうか。車窓には朝の雲が下界に降りてきて、朝方の不思議な静けさと空気感とともに幻想的な、水墨画のような風景を作り出している。もし清少納言がこの列車に乗っていたら、窓からゴールド色のiPhone11Proを伸ばして自撮りを連写し、 「#春はあけぼの」をつけてインスタに投稿しているだろう。
 そんな幻想的な風景も日が昇るにつれどんどん明るくなり、5時51分に大月駅に着いた。すぐに向かいに止まっている5時54分発の普通列車甲府行きに乗り込む。列車は相変わらず山の中を進み、笹子峠をトンネルで抜けて甲府盆地へ飛び出す。果樹園を上から見下ろすように引かれた線路を通り、徐々に盆地へと降りる。列車は笛吹川の河岸の駅・山梨市駅に着いた。まるで自分が天井だと言わんばかりに厚く低く張っていた雲は既に薄くなり、雲間から朝の淡い空色がのぞいている。

山梨市駅

徒歩2時間半

 さて、この旅最初の目的地は山梨県は山梨市、ほったらかし温泉である。甲府盆地をみわたせる山の中腹の露天風呂。アニメ「ゆるキャン△」で登場したことで有名になった場所だ。ほったらかし温泉に行くバスはめちゃくちゃ少ないので、今回の旅行では駅から往復2時間半、9kmという正気の沙汰じゃない距離の行脚を自ら選択してしまったことである。しかし、決めたからには仕方ない。今日このあと乗る予定の小海線は極端に本数が少ないため、ここでの3時間ほどのロスは全く影響しないのだ。駅を出て、NEWDAYSで山梨らしくぶどうジュースを買って歩き出す。

 最初は歩くだけなのでわけないと考えていたが、歩き始めて10分で後悔が押し寄せた。想像以上の急坂なのだ。それはもう、幼稚園の小さな滑り台が延々と続いて、それを登っているような感覚だ。市街地を抜け、果樹園の中にひかれた細い舗装路を歩く。後ろを振り返ると、桜の向こうに広がるのは早朝の閑静な山梨市の街並み。景色は最高だが、坂はますます角度を増し、足に負担がかかる。

 だいぶ標高を稼いだのか、振り返ると果樹園の向こうに山梨市の市街が広がっている。歩くごとに家々はやうやう小さくなりゆき、周りからは民家や畑が消え、だいぶ山道らしくなってきた。季節は3月下旬、桜が咲いている。歩き始めて1時間強、ようやくほったらかし温泉の看板が見えてきた

 ほったらかし温泉

駐車場には何台もの車とバイクが停まっていて、それらの合間を縫って入り口を目指す。まるで徒歩客を想定していない、当たり前である。
 さっそく温泉に入る。タオル(もらえる)と入湯料合わせて1000円を上納して暖簾をくぐる。撮影しようものならこの記事が出る前に僕が少年院に入るので惜しいことに写真は載せられない。なので、この露天風呂からの眺めは、ここに来た者にしか経験できないのだ。先ほどよりも高い位置から甲府盆地が一望できた。太陽がどんどん高くなる朝8時ごろ、淡い光に包まれた平野には、白のまだら模様に見える桜の木、びっしりと植えられ、旬を待つ葡萄、桃といった果物の樹。見ているだけで甘い匂いがここまで漂ってくる気がした
 風呂を出る。かわいいタオルはそのまま貰えるので、水道で洗って乾かしリュックに入れた。

…美味しい。


 外に出ると美味しそうな味噌の匂いが鼻に入ったので気づいたが、朝3時半に起きて未だ朝ごはんを食べていない。その匂いの正体は、温泉の傍で売ってる卵かけご飯と味噌汁の朝ごはんセットの仕業であった。卵かけご飯と味噌汁の朝ごはんセット卵かけご飯と味噌汁の朝ごはんセット。なんと素晴らしい響きなのだろう!場所は山梨県の大自然、風呂上がりの火照った体に、山の朝の涼しい風が、心地よい!気づいたら俺は列に並んでいた…!値段なんかどうでもいい、卵かけご飯と味噌汁の朝ごはんセットを手に入れるまでは!給食のおばちゃんみたいな格好の給食のおばちゃんがご飯と味噌汁をよそってくれた!俺はそれをお盆で運び、ベンチに腰掛けた…!

卵かけご飯と味噌汁の朝ごはんセット

いただきます!!
卵を手に取り、コツコツとヒビを入れ、圧力をかける。
割れた…!なんと綺麗な色の黄身だろうか…!
醤油をかける。熱々の白飯は湯気をあげ、その上にもはや発光してそうなほど明るい黄色の卵。醤油の茶色は長時間の醗酵からくる、奥深く優しい塩味の色…!
黄身を割り、そして箸で口に運ぶ。
美味い!!美味すぎる…!ぁ悪魔的だ…!
ご飯の炊き加減は完璧。ジャポニカ米を主食とするこの国に生まれて17年。遺伝子に隅まで染みついたものがまるで体内で反応しているようだ。「白飯は、美味い。」当たり前すぎて忘れていたが、久しぶりに実感した。それを卵と混ぜてこれは無敵の布陣だ。漫画の中で誰かが言っていた。「醤油は添えるだけ…
味噌汁は飽きがこないように優しい味を舌に伝えてくれる。こちらもまた日本の心、最高のマッチングである。もし卵かけご飯と味噌汁がtinderをやっていたらお互いにライクを連打して待ち合わせ、出会って5秒でゴールインだろう。
納豆もついていた。こちらももちろん美味しかった。食レポの語彙は出し切ったので、ここら辺で完食ということにしよう。

帰路

 列車の時間もなく、少しのんびりしてから帰路に着いた。もちろん1時間強の道のり。しかも下り坂である。傾斜がきついので、下り坂の方が上りより余計に疲れた。

ヘヤーサロンアミーヨ

 帰りは迷うことなく山梨市駅へと戻ってきた。列車の時刻へは余裕で間に合った。さて、これからいよいよ山梨県の県都甲府へと乗り込むのだが、いかんせん3000文字を超えそうなので、一旦切らせていただく。僕が苦手だった食レポ、良くなってきたでしょうか。感想お待ちしております。

以上

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