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16歳の北海道一周旅行記 #6 留萌と富良野の絶景編

旭川の朝

人口30万、中核市でもある旭川の市街地は眠ることはない。お祭りの期間ということもあり住民はテンションがハイになったまま朝を迎えたようで、早朝の四時にも関わらず人通りはそれなりであった。今日の夜も同じホテルに泊まるため、昨日までの無駄にクソ重いリュックを抱えて人混みの邪魔になる鈍重な僕とはおさらばである。

旭川駅に着いた。昨日は夜遅かった上、死ぬほど疲れていたため気づかなかったが、立派な駅舎だろうか。朝5時発、札幌行きの特急に乗る。降りるのは次の深川だ。

旭川駅と特急ライラック

数分だけなのに特急とは、なんたる贅沢。私は「HOKKAIDO LOVE! 6日間周遊パス〜(ドラえもんボイス)」を持っているのだ。控えおろう!私は印籠を手にした水戸光圀である
石狩川が作り出す名勝・神居古潭を非情にも長いトンネルで貫き、すぐに列車は深川駅のホームに滑り込む。

日本海・留萌へ

留萌行き普通列車

深川駅のホームにいた見慣れた顔の汽車に乗り込む。留萌行き普通列車だ。留萌本線は、2023年4月1日、丁度この記事を書いてる一ヶ月前に、毛ほどの区間を残して廃止になってしまった。しかし、この記事は2022年の8月というとんでもない大昔の旅行記なので、留萌本線は留萌駅まで繋がっている。

車内に入り、適当な席に腰掛ける。しばらく経つと、汽車はゆっくり動き始めた。乗客は僕と白シャツのおじさんの2人だけである。彼は一眼レフで車内や車窓を撮りまくっている。おそらくこの線路が廃止になる前に記録しようという魂胆だろう。

彼に倣って一枚撮ってみた

木造りの趣ある恵比島駅を過ぎると、汽車は山奥に分け入っていく。車窓に見えるのは、木と畑だけ。先日乗った釧網本線や花咲線に比べるとなんとも地味で欠伸が出る。しかし、何の趣もない旅路というのも、それもまたいいじゃないか。ええ、逆にね。

昭和感のある錆と汽車の出す排気の匂い。そしてめちゃくちゃ五月蝿い汽車の走る音。大きく空いた窓から直に顔に当たる北海道の涼しく、澄んでいて、たまに牧草や肥料の匂いがする空気。全てが旅情を感じさせるのだ。これぞ北海道の鉄道旅の良さである。

ほっそい留萌川を小橋で渡ると、急に視界に人工物が現れる。人口1.9万人、留萌地方の中心的都市、留萌市の市街地だ。程なくして汽車は留萌駅に到着する。

留萌駅の広いホーム
留萌駅外観(現留萌駅跡)
留萌駅の駅名標

留萌に鉄道で来る。もう一生できないであろうこの経験を、心に留めておく。
駅の外に出ると、異様に寒い。天気アプリを開くと、なんと気温は12度である。夏というのは、暑いものではなかったのか。それとも、私が気づかないうちに、「HOKKAIDO LOVE! 6日間周遊パス〜(ドラえもんボイス)」で元を取りまくった罰として、南半球に飛ばされてしまったのか。Wikipediaによると、留萌市の8月平均気温は21℃。やっぱり普段より寒いようだ。しかしまぁ、僕は冬生まれでオラフより熱に弱いので、夏の気温なんて低ければ低いほど良いと思っている。寒い分には普通に嬉しい。

僕が留萌に来た目的は、2つある。一つは来年  消えてしまう留萌本線に乗ること。もう一つは、日本海を望む黄金崎である。本旅行の目的は、北海道一周。ひし形に近似できる北海道の一つの辺を作る日本海を望まずして、北海道一周旅行は名乗れまい。

駅前のスーパーの開店時刻を5分ほど待って、お茶を買う。もちろん買うのはとうきび茶!
……黄金崎に向かって歩き出す。人影の無い街並みの淋しさを、低い気温が助長する。商店街を進み、国道を通る。途中で地元のおじいちゃんが話しかけてくれた。廃線路を渡り、岬へ向かう。途中、留萌港が見渡せた。

留萌港

留萌は、カズノコの国内最大級の生産地である。広い港内が、漁業の街・留萌の役割を物語っている。

30分ほど歩いて、黄金崎に到着する。
荒々しい日本海が作ったゴジラの肌みたいな岩肌に、波が打ちつけている。海岸に降りるには、崖を階段で降らねばならない。その崖の上にアフリカを制するセシル=ローズのような格好で立っていると、遮るものない日本海が見渡せて、強い海風が体に当たって心地よい。

日本海の青空には、大きな虹が掛かっていた。
「来てよかった」思わず出たこの言葉が、旅の醍醐味の全てである。

黄金崎より

(ちなみに、旅先では「潮風で服に塩が着くから〜」など考えない方が幸せになれる。黙ってホテルの水道で手洗いだ!)

帰りの汽車まではまだかなり時間があるので、海岸沿いを南に向かって歩いた。列車に遅れそうになり駅までダッシュし、留萌駅に帰ってきた。さようなら、留萌。さようなら、留萌本線。またこの地に足をつける時、それは車での訪問になるだろうが、それがどんなにおそくなろうとも、必ずまた来ると誓った。

そこからもう乗ることのないであろう留萌本線の普通に乗り深川駅、またも特急に乗り換え(贅沢にも!)、再び旭川駅に着いた頃には時刻は10時半をまわっていた。

(時刻について、「意外と早いな」と思われたのではないか。それもそのはず、僕が朝起きたのは朝の四時、留萌駅に着いたのは朝の6時半である。もう寝たい気分だが、まだ世間的には朝である。)さて、今日の次の目的地へ行こう。

美瑛・富良野で絶景まつり

さて、本日二つ目の目的地は富良野・美瑛だ。
北海道と聞いてイメージするだだっ広い農地、青い空、色鮮やかな花畑。北海道のステレオタイプ、その全てが富良野・美瑛産であると言ったら過言である。……が、北海道の観光において、北海道の真ん中というその立地も含めてめちゃくちゃでかい存在感をはなっている。

旭川駅に汽車が止まっている。各駅停車美瑛行きである。乗り込むと、中は観光客でいっぱいであった。まぁ薄々予想していたが、一人旅において自分以外の旅行者というのは何より邪魔な存在である。しかし致し方なし。

富良野線美瑛行き各駅停車

石狩川を渡り、旭川の市街を抜け、畑の中を突き進む。旭川から美瑛はまぁまぁ近いので、30分ほどで着いてしまう。名は体を表す、最早その名前からして絶景が約束されている街、美瑛に到着だ。

美瑛駅

さて、美瑛・富良野の観光だが、なんと言っても僕はサイクリング大好きお兄さんなので、レンタル自転車でまわることにした。
無事に自転車を借りて、まずは美瑛駅の東にあるマイルドセブンの丘に向かう。しかしこれが結構な上り坂、立ち漕ぎでなんとか乗り越えて、後ろを振り返ると、そこには青空の下、波打つ丘が広がっていた。圧巻の絶景だ。

美瑛の丘

さて、いつまでも見惚れてないで、次だ。
次の目的地は、四季彩の丘である。四季折々のカラフルな花が見栄えよく植えてある、作られた観光スポットだが、「作り物だろ!」といった野暮な批判はその圧倒的な「映え」の暴力によって黙らされてしまう。

マイルドセブンの丘から四季彩の丘までは13km、Googleマップの自転車道案内では45分かかると出ている。結構遠いなぁ……ぁっ!でも!僕は!サイクリング大好きお兄さん!行くぜ行くぜ!
うおおおおお!!漕げ漕げ漕げ!!

富良野線の線路を渡る

うおおおおお!!!漕げ漕げ漕げ!!!

道中、超北海道!

うおおおおお!!緑と青と土色のコントラスト、波打つ丘と奥には大雪山系の山々が見事な絶景を生み出している〜〜!!!

うおおお!!漕げ漕げ漕げ漕げ〜〜〜!!!

あそこに住みたい(一ヶ月くらい)

アップダウンが激しい道を、ひたすら漕ぎ続ける。脳内BGMはもちろんスピッツの「優しいあの子」。30分くらいで着いてしまった。

さすがの観光地、駐車場には銀色に光るの車がずらり。入場料を払って中に入る。

反則級の色どり

これは、ちょっと綺麗すぎないか?
反則級のカラフルさである。上の写真は、僕のミラーレス一眼で撮ったものだが、彩度は全くいじってない。これでこの彩。丘に沿って波打つ花の絨毯は文字通り目に焼き付いた。

さぁ、レンタサイクルということで、必ず返さねばならない。もちろん返すのは13km先の美瑛駅である。
ということで……

帰路


うおおおおお!!漕げ漕げ漕げ〜〜!!!

美瑛駅に戻ってきた。
ここからは路線バスに乗るため、レンタサイクルとはここでお別れになる。ありがとうレンタサイクル。ちなみに割と観光地価格だ。

30分ほど待って、美瑛駅前からバスに乗る。バス路線の名前は、「美瑛白金線」。そう、これから僕が向かうのは「白金青い池」である。ここには苦い思い出がある。

あれは、僕がまだ中1のころ……
家族旅行できた白金青い池は、当時2010年代後半はインバウンドの絶頂期ということもあり、観光客の長い長い行列ができていて、2時間待ちの勢いだったため、青い池を見るのを断念した過去があるのだ。

しかし、今日は2022年。国内旅行の制限は無くなったとはいえ、海外旅行は依然ハードルが高かったため、日本を訪れる外国人観光客も大幅に減っていた。つまり、2022年は「外国人に人気の日本の観光スポット!」を空いてるうちに見て周る絶好の機会なのである。

というわけで、路線バスに25分ほど揺られる。ローカル路線バスは、鉄道やバイクに負けず劣らず、場合によってはそれ以上の「旅情ポテンシャル」を持った乗り物である。地元民の生活を乗せる、知らない土地の路線バスは自分の知らない街の空気感を直に感じられて好きだ。
大雪山を正面に、美瑛川の上流へと進む。そして、青い池に着いた。

白金青い池

先ほどの四季彩の丘もそうだが、北海道の観光パンフレットなんかには200%この地の写真が載ってるため、それほど新鮮味は無いが、やはり肉眼で見ると凄い。なんというか、マジで青いんだ。といった感じだ。さすが、天下のAppleが壁紙に採用しただけある。
青くなる理由は、まぁ、Wikipediaをご参照くださいと言ったところだ。僕は生粋の文系でなので、水酸化アルミニウムとか言われても?だ。

帰りも同じ路線バスである。普通にめちゃくちゃ山奥なので、路線バスにおいていかれると終わる。バス停でガン待ちしていたが、5分くらい遅れていたのには焦った。
バスに揺られること25分、美瑛駅に帰ってきた。

旭川帰還

美瑛駅のホームに出て列車を待っていると、何やら人だかりが。そして人々の視線は線路の先へ。カメラを向ける人もいる。事前情報の何もない僕は、「なにか」が来る雰囲気にすこしたじろぐ。やがて林の奥から汽笛の音が鳴り、列車が現れた。

富良野・美瑛ノロッコ号」だ!
生徒たち:「先生、なんですか、それー?」
富良野・美瑛ノロッコ号とは、この旅行記#5に登場した伝説の「旅程の救世主(メシア)」こと釧路湿原ノロッコ号の富良野・美瑛バージョンである!
今回も彼に救われるのか。

なぜか窓の写真しかない。撮っとけよ…

こいつに乗り込み、旭川駅へと向かう。全開の窓から、美瑛の綺麗な空気が車内を吹き抜ける。一気に今日の疲れが出たが、椅子が木なのでめちゃくちゃ尻が痛い。まぁ、観光列車だからしょうがない。偶然この旅情あるトロッコに乗れただけでもラッキーなのだ。
17時46分、旭川駅に帰ってきた。

その足で昨日泊まったホテルに戻る。そう、今日は連泊だ。連泊というのは最高に便利だ。なんたって、部屋に荷物をぶちまけたままお出かけができる。ホテルに戻って、ふかふかのベッドに身を投げ出したのは18時ごろだった。

夜ご飯

北海道、それも夏。18時というのは、まだまだ全然明るい。ちょっと休んだのち、考える。脳内には、一つの議題が上がる。「このまま今日を終えていいのか問題」だ。僕はこの旅行の先月に、三浦綾子著の『塩狩峠』を読んだのだが、その舞台がすぐ近くにある。最初はそこに行こうと思ったのだが、よくよく乗り換え案内で確認すると、夜の塩狩駅に1時間近く滞在することになってしまう。衛星写真を見てもらえればわかるのだが、塩狩駅はど山のど真ん中で、ひとりぼっちで行くとめちゃくちゃ怖い。なんなら僕の他にもう1人降りたりしたら逆にもっと怖い。僕に正直そんな勇気はないので、今度は石北本線に乗って畑のど真ん中のどこかの駅で降りて、北海道の星空を見ようと思い立った。

思い立ったらすぐ行動だ。なぜなら列車の時刻がめちゃくちゃヤバいからである。全力で走った。なんとか間に合い、普通列車上川行きに乗り込む。僕が乗ると30秒ほどで発車した。
夕焼けを背景に、列車は旭川の市街地を抜け、あたり一面畑の中に飛び出した頃には、すっかり黄昏時であった。

乗り換え案内で調べた限り、上川駅まで行かないと折り返しの特急に乗れないため、途中駅で降りると人間的生活が終わることが判明したので、上川駅まで1時間ほど揺られる。まさかこんなに衝動的にホテルを出た結果、往復2時間も列車に乗る羽目になるとは。ウェストポーチしか持ってきてなかったので少々不安だが、まぁ大丈夫だろうと、硬い座席で脚の疲れを癒しながら思った。

上川駅

上川駅に着いた。山の中だ。列車の中で調べたところ、駅前にラーメン屋があるらしいので行ってみる。引き戸を開けるとお座敷個室のなんか高そうな雰囲気だったため、「ここってお値段どのくらいあれば足りますかね」とみっともない質問をしてしまった。
どうやら1000円あればなんか食えるらしいので、中に入る。
僕は「上川ラーメン」なるものを注文した。ご当地ラーメンなんてのは、旅先では大歓迎だ。

上川ラーメン。地元豚を使ったチャーシューが絶品

うまかった。それもすごく。食レポはできないが、女将さんに「すっごく美味しかったです」と伝えたことは覚えている。(目を輝かせていたと思う)

さて、星を眺めにきたので、上川駅のホームの端っこの暗いところから、上を眺めてみる。まだ月が半分しか隠れていないからか、あまり星は見れないが、それでも東京とは比べ物にならない。天の川も見れた。もちろんスマホのカメラでは捉えられていないが。

帰りの特急が来た。これに乗り、旭川へと帰る。時刻は21時をまわっていた。
旭川駅に戻ると、なにやら音頭が聞こえてくる。旭川の祭りはまだ続いているようだ。しかし僕にはもう体力がないため、人ごみを掻き分けホテルへ戻り、服を洗ってから明日の列車の時刻を確認してすぐに寝てしまった。

大都会・旭川のお祭り

本記事に使用した写真は注釈のない限り著者自身が撮影したものであり、著作権に基づき一切の無断使用・転載を禁止します。

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