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【ショートショート】12と1/2階

 13階建てのこのビルの最上階は12と1/2階と表示されている。13を不吉とする西洋では13階がないのはよくあることだ。ただひとつ、このビルが他と違うのは、12と1/2階に行って、戻って来た者がいないということ。いったいそこに何があるのか、この目で確かめずにはいられない多くの者が、階段を上って行き、姿を消してしまった。

 ビルの噂が広まるにつれ、そんな呪われた建物は取り壊してしまえという者たちと、徹底的に謎を解明するまでは壊すべきではないと主張する者たちの間で、議論が起こった。解体派と保存派が衝突し、ビルの前でデモ隊同士の争いが激しくなった。

 ある日、ひとりの少年がやってきて言った。「僕が行って見てきます」

 大人たちが止めようとする手をすり抜け、勇敢な少年は12階まで来た。12と1/2階への階段をゆっくり一段ずつ上った。下の踊り場では大人たちが、息を殺し、祈るようにその一歩一歩を見つめていた。下から数えて12段目に来た時、少年は止まった。そして振り返って言った。「死刑台はとばしましょう」一段とばしてぴょんと14段目を踏んだあと、少年はもう階段にはおらず、宙を泳いでいた。背中には羽があった。誰かが「天使だ!」と言うが早いか、天井から眩しい光が降り注ぎ、これまで階段を上がって行って戻ってこなかったたくさんの者たちが、降りて来た。

 泣いて再会を喜ぶ者たちの間に、もう天使の姿はなかった。時を同じくして、ひとりの少年がこのビルの屋上から落ちて亡くなったというニュースが飛び込んだ。

 
 

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