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[書評] 石黒書籍の物理学入門

ミオール / Mícheál

zaki『難しい数式を使わずに勉強する物理学入門: 物理学が好きになる!!』(石黒書籍、2022)

zaki『難しい数式を使わずに勉強する物理学入門』(2022)

物理学への関心の扉を開けてくれる

物理学について関心があり、かつて勉強したか、これから勉強したい人向けに、いろいろな切り口があることを紹介する本。

おそらく、そのような人なら誰でも読み通せる本であると思われる。なぜなら、1ページに盛りこまれた内容が簡潔で、図解を活用して直観的な理解を助ける書き方になっているからである。

そうして、物理学について、どういうアプローチがあるのかを一通り知ることは大事なことだと考えられる。その際に、数式を使うと、それだけでハードルが大幅に上がり、本書の内容だとついていけない人が多いだろう。だが、文章と図だけなら、日本語が読めれば、ある程度の理解が可能だ。

評者の場合はどうかというと、かつて原子物理学を志したことがあるので、本書の内容には親しみがもてた。よく知らなかった内容にも触れられたので、刺激も受け、おもしろかったというのが正直なところだ。

欲をいえば、注ででもよいので、文章の説明を数式で表すとどうなるかを書いてほしかった。その部分は興味ある人向けということにすれば問題ないと思われる。

本書で扱う内容を箇条書きにしておこう。

・力学
・電磁気学
・解析力学
・量子力学
・統計力学
・物性物理学
・流体力学
・散乱の物理学
・原子核物理学

このように多岐にわたる。興味深い話題もいろいろ入っている。例えば、「電磁気学」の章に出てくる〈ブドウパンモデル〉だ。本書によれば、それは〈正の電荷のスープの中に電子が存在している原子のモデル〉だという。

後にガイガー・マースデンの実験では否定されるが、原子の性質を調べる際に数学的に楽であり、実験結果ともわりによく合うと著者は書く。

原子の構造のモデルとしては正しくないにもかかわらず、ある程度、使えるという、なんともふしぎなモデルだ。

ふしぎなのは別にいいが、評者がピンと来なかったのは、〈スープの中に電子が存在している〉といいながら、なぜ〈パン〉なのかということだ。

調べると、もともとのモデル名は〈プラムプディングモデル〉というらしい。このモデルが発表された1904年当時、日本では、プラムもプディングも一般的でなかったために、〈ブドウパンモデル〉と訳されたのだという。

明治期の森鴎外の翻訳論を思い出した。彼は、「飴玉」と書けとの勧めを断固ことわって「マクロン」で通した。〈日本固有の物を避けて、特殊の感じを出さうと〉したのだ。

長い目で見れば、鴎外のような立場をとるほうが、結局はよくわかると思う。評者は本書を読み終わっても、〈ブドウパンモデル〉には最後までなじめなかった。

ひとつ注文をつけると、本書の前提として、物理学の大きな分類について、どこかにまとめてあるとよかったと思う。

古典論と量子力学以降とでは、同じ問題についても捉え方が大きく違うことは本書の随所に書いてある。それはいわば歴史的な学問発展史の問題だ。

一方で、問題に取組む際のアプローチの違いで2種類の物理学に分かれることも書いてあれば、ずいぶん理解が違っただろう。それは問題を解決するのに実験で確認することを重視する実験物理学と、問題の解を主として数学的に導く理論物理学の2つだ。本書ではそれらが混在している。数式を使わないと宣言している以上、後者にはあまり触れられなかったのだろう。

#書評 #物理学 #入門書

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