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[英詩]Bob Dylan, 'Highlands' (1)

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

英詩のマガジン の本配信、今月2本目です。歌われる詩の1回めです。今回はボブ・ディランのアルバム 'Time out of Mind' (1997年、下) に収められた 'Highlands' です。16分を超える長い曲です。20連あるので、何回かに分けて扱います。今回は1-5連です。

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冒頭の my heart’s in the Highlands を聞いてすぐロバート・バーンズの 'My Heart’s in the Highlands' を想起します。Robert Burns (1759-96) はスコットランドの国民詩人で、the Highlands といえばスコットランド高地のことですし、Highland といえばスコットランド高地地方「ハイランド」のことです。

バーンズの詩と同じく、本歌は死を、それも特に死後の生を扱います。

語り手の魂は神秘の風に運ばれて虚空をさまよい、〈ドアの外では毎日が同じ〉と唄います。このドアとは何だろう? とマルゴタンらは問い、結局、この歌の highlands とは創世記のエデンの園のことではないかと言います。

どうなのでしょうか。

本マガジンでは、バーンズの詩をみたあとに、ディランの歌を考察します。

録音は1997年1月 (マイアミの Criteria Recording Studios)。プロデュースは Daniel Lanois で、録音エンジニアは Mark Howard.

次の参加ミュージシャン。

Bob Dylan - vo, g
Daniel Lanois - g
Augie Meyers - org
Jim Dickinson - el-p (Wurlitzer)
Tony Garnier - b
Tony Mangurian - perc, ds (?)

(vo: vocal, g: guitar, org: organ, el-p: electric piano, b: bass, perc: percussion, ds: drums)


参考文献 は、文字数の関係で別の note にあります。

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(202106)」へどうぞ。

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【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として新しい方から2番めのノーベル文学賞詩人です。(最新のノーベル文学賞詩人 Louise Glück もときどき取上げます)
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

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My Heart's in the Highlands

次のロバート・バーンズの詩テクストは 'Complete Poems and Songs of Robert Burns' (Harper Collins, 1995) [based on The James Barke ed., 1955] による。下の Karine Polwart の歌唱はスコットランド英語の発音で唄う。

動画リンク [Karine Polwart, 'My Heart's in the Highlands']


My Heart's in the Highlands
Robert Burns

Chorus
My heart's in the Highlands, my heart is not here,
My heart's in the Highlands a-chasing the deer,
A-chasing the wild deer and following the roe--
My heart's in the Highlands, wherever I go!

I
Farewell to the Highlands, farewell to the North,
The birthplace of valour, the country of worth!
Wherever I wander, wherever I rove,
The hills of the Highlands for ever I love.

II
Farewell to the mountains high cover'd with snow,
Farewell to the straths and green valleys below,
Farewell to the forests and wild-hanging woods,
Farewell to the torrents and loud-pouring floods!

コーラス
私の心はハイランドにある、私の心はここにはない、
私の心はハイランドで鹿を追いかけている、
野生の鹿を追いかけ、ノロジカのあとをつけている
私の心はハイランドにある、どこに行こうとも!

I
さらば、ハイランド、さらば北の国、
勇者が生まれ、偉人が住む国!
どこを彷徨おうとも、どこを流浪しようとも、
ハイランドの山々を永遠に愛する。

II
さらば、雪が高く積もる山々よ、
さらば、眼下の大渓谷よ、緑の谷よ、
さらば、森林よ、鬱蒼たる森よ、
さらば、急流よ、轟く川よ!

ハイランド放逐 (Highland Clearances, 18-19世紀に牧羊のために人々を強制的に立ち退かせた) のようなできごとで故郷を去り、移住していった人々のノスタルジアを謳う。移住者のなかには、カナダを含む北米に行った者もいる。

ハイランドを追われて去るときの回想とみれば、望郷の思いはまだ実現の可能性がわずかでもあるが、ここは、おそらく、死に際して、もはや帰郷は望めぬ、ただ心は故郷にあるとの、あふれ出すような懐旧の情が切々とひびいているのだろう。瞼に浮かぶハイランドの自然を思い出しつつ、世を去ろうとしているのだ。このような、死の床での望郷の歌は、スコットランドやアイルランドに多い。

ディランはロバート・バーンズについて、「バーンズからは最大のインスピレーションを受けており、彼の詩 'A Red, Red Rose' は人生で最大のインパクトがあった」(He has said that Burns is his greatest inspiration, claiming that the poem A Red, Red Rose had the greatest impact on his life.) ('Bard debt: Bob Dylan and Scotland') と言っている。

参考までに、'A Red, Red Rose' の詩テクストを上記の Barke 版準拠の本から引用しておく。下の Davy Steele の歌唱はスコットランド英語の発音で唄う。なお、上でも紹介したが、スコットランドの Linn Records は全12枚のバーンズ全集 'The Complete Songs of Robert Burns' を出している。Linn はオーディオ・メーカとしても著名で、本シリーズは音質・演奏とも最高水準のものである。[現在は CD 盤でなく、FLAC などの音源で配信]

動画リンク [Davy Steele, 'O My Luve's Like a Red, Red Rose']


A Red, Red Rose
Robert Burns

1
O, my luve's like a red, red rose,
 That's newly sprung in June.
O, my luve's like the melodie,
 That's sweetly play'd in tune.

2
As fair art thou, my bonnie lass,
 So deep in luve am I,
And I will luve thee still, my Dear,
 Till a' the seas gang dry.

3
Till a' the seas gang dry, my Dear,
 And the rocks melt wi' the sun!
O I will love thee still, my Dear,
 While the sands o' life shall run.

4
And fare thee weel, my only Luve,
 And fare thee weel a while!
And I will come again, my Luve,
 Tho' it were ten thousand mile!


Highlands

次のボブ・ディランの詩テクストはリクスらの校訂版による。

動画リンク [Bob Dylan, 'Highlands']


Highlands
Bob Dylan

1連

 Well my heart's in the Highlands gentle and fair
 Honeysuckle blooming in the wildwood air
 Bluebelles blazing where the Aberdeen waters flow
 Well my heart's in the Highland I’m gonna go there when I feel good enough to go

(注)
the Aberdeen 「アバディーン川」のように受取られかねないが、スコットランドのアバディーンを流れる川は River Dee.

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