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[書評] 西森マリー氏の近著

(秀和システム、2024年4月10日刊)

アメリカ在住者の視点で書かれた2023-24年の米国情勢

この本に出会ったきっかけの一つは著者近影だった。記憶にある著者の姿はこんなではなかった。

著者の2023年の著書カバーの写真で、あれっ、こんな方だったっけと思ったのが、きっかけだ。ムスリムの女性として写っている。カイロ大学へ留学したとの話にも興味を惹かれた。

本書はアメリカ在住者の視点で書かれているとのこと。これは貴重だ。

と思って読みはじめると、早速、アメリカに住んでないとわからない話が出てきた。ESPNというスポーツ専門局が最近評判を落としていると(71-72頁)。日本ではスポーツ専門チャンネルとして定評があるように思っていたが、本書によると、最近はウォウク偏重の度が過ぎて視聴者が離れているらしい(〈スポーツ専門局のくせに、アナウンサーやコメンテイターがウォウクな政策を褒める発言ばかりしている〉71頁)。

正直いうと、この記述に出会うまでは、知っていることばかり書いてあるなとの印象だった。が、これで印象ががらりと変わった。なるほど、アメリカに住んで実感として知っていることというのは、こういうことなんだと。

ウォウクという言葉は、簡単にいうと、白人を逆差別するようなことで、日本にかつてあった〈自虐史観〉の白人版みたいなものか。

上品に定義すると、例えば、aware, especially of social problems such as racism and inequality の意と、Cambridge Academic Content Dictionary (Cambridge UP, 2008) は定義する。目覚めていること、特に人種差別や不平等などの社会的問題に目覚めていること、というようなことになる。しかし、もうちょっと踏込んでいうと、本書の〈アメリカの日常会話では、PCにさらに輪をかけたものがウォウクと言われ〉のような説明のほうがよくわかる(69頁)。

もう一つのきっかけは、2024年大統領選挙までのアメリカの情勢を占う上で、参考になりそうだからだ。執筆は2023年晩秋から2024年1月の時点だが、今のところ、米情勢を伝える最新の本の一つだ(2024年4月10日刊)。

「あとがき」には2024年3月13日の情報まで入っている。

本書は、トランプの動向を追いかけるマニア向けのソース・ブックの性格もあるが、ありがたいのは本書の〈出典サイト〉ファイル(PDF)が出版社により提供されていることだ。これを見れば、本書記事の根拠がただちに確認できる。

「マニア向け」と書いたのは、本書が、〈ずいぶんと読み易くなりました〉と監修者の副島隆彦氏が述べるにもかかわらず、一般読者には読みにくい側面があるからだ。現在の米国でふつうに使われている言葉が説明なしにポンポン出てきて、その説明がないか、後になって出て来るために、意味がつかめないことがある。ふだん米国の情報源、特に本書が挙げるポッドキャストなど(デイヴィッド・ニーノ・ロドリゲス、スコット・マッケイら)に接している人は別として、殆どの読者には初耳の表現や発想法が本書には多い。

が、逆にいえば、米国の生の声がわかる貴重な書であるということだ。

本書を出版する秀和システムは、プログラミング関係の本でおなじみの出版社で、実際に同社の2024年5月10日付け売上ランキングのKindle部門では10冊中8冊までがその関連の本である。ところが、同ランキングのリアル書店部門では本書(『帰ってきたトランプ大統領 アメリカに“建国の正義”が戻る日』西森マリー 著・副島隆彦 監)がトップである。また、同部門の4位には本書の監修者・副島隆彦著の『教養としてのヨーロッパの王と大思想家たちの真実』が入っている。

リアル書店に出かけて行って、手にとってパラパラ見た上で購入している人たちの間で、同社の本のうち、これらの本が売れているのは、ある意味、驚くべきことである。

これは評者だけの感じかもしれないが、本を実際に手にとった上で購入できることは幸せである。手にとった瞬間に、〈これは自分が読むべき本だな〉ということが、なぜか直感でわかるからである。

#西森マリー #トランプ #アメリカ

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