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[書評]『0能者ミナト 〈10〉』

孝元の知られざる過去とユウキを結ぶ謎

「0能者」シリーズ第10巻。今回も長編だ。

主役は高校生時代の荒田孝元(総本山の法力僧)と、現在の赤羽ユウキ(小学生でありながら強い法力の持ち主)。いつもは主人公の九条湊(霊能力ゼロでありながら科学的思考で怪異を退治する零能者)は脇役に徹する。

出てくる怪異(人の世の理から外れたもの、人の力が及ばぬ脅威)は牛頭鬼(ごずき、地獄の獄卒と言われる)、馬頭鬼(めずき、獄卒の番人と呼ばれる牛頭馬頭の片割れ)、神虫(しんちゅう、神の化身、疫鬼をくらう)など。

十七歳の孝元は牛頭鬼にやられそうになったとき、一刀両断のもとに牛頭鬼を退治した赤羽夏蓮に命を救われた。夏蓮は総本山のなかで五指に入る怪異討伐の手練れだった。彼女をそこまで鍛え上げた父親、赤羽義雄も並外れた法力の持ち主だ。

男所帯の総本山の中で女の傑物は異物として疎まれる。若い僧であった孝元は頼まれて家庭教師をするうち、そんな夏蓮に惹かれてゆく。ところが、あるとき、馬頭鬼が武具をもたぬ夏蓮を襲い、全身に大怪我を負わせる。夏蓮親子は総本山から姿を消す。一月ほどして義雄から孝元に手紙が届く。親子が総本山を出たのは夏蓮が妊娠したためであること、普通の男性と恋をして子を授かったことが記されていた。

現在に話がうつり、ユウキが留守番しているところに事件の依頼人がやってくる。四十歳くらいの国崎弦と名乗る男性だった。製薬会社の開発者で精神科の医師。怪異が見えるという心理学的な現象について調べているという。怪異は集合無意識から来る幻覚と決めつける。疑うユウキに、国崎はコップに水を汲んできてくれれば怪異が幻覚症状だと証明するという。懐から怪異という幻覚をつかさどる深層心理に働きかける薬を取りだす。これを飲めば怪異という幻覚症状は抑えられると説明する。ためしに飲んでみたらと言われてユウキは飲む。ユウキの法力に変化が現れるのか。

物語を通じて現在のユウキにつながる孝元の関わりが徐々に明らかになる。孝元とユウキのそれぞれの恋の要素も出てきて、人間ドラマの側面もある。

怪異ははたして幻覚症状なのか。さらに、興味深い問題として真名(まな)のことが出てくる。ユウキというカタカナの名前は真名を隠すためなのか。それは赤羽家の秘法にかかわるのか。


葉山透『0能者ミナト 〈10〉』(メディアワークス文庫、2016)

#葉山透  #0能者ミナト #怪異 #真名 #幻覚 #書評

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