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[書評] 図解全訳古語辞典

宮腰 賢・石井正己・小田 勝 編『旺文社 図解全訳古語辞典』(旺文社、2021)

『旺文社 図解全訳古語辞典』(2021)見出し語検索可能な紙面PDF

見出し語検索可能な紙面PDFの特典

購入者特典で見出し語検索可能な紙面PDFがダウンロードできるが、その特典は〈予告なく終了する場合〉があるとの情報を得たので、急ぎ入手。無事、PDFがダウンロードできた(購入は2022年6月)。

PDF版には2種類ある。見出し語検索が可能な高画質版(約913MB)と、閲覧のみ可能な軽量版(約312MB)だ。前者はPCでの利用向けとある。

かねて、『旺文社 全訳古語辞典』は使っているので、中身についてはある程度なじみがある。評者の手許にあるのは第四版(2011)だが、今回のオールカラーの図解版は2021年9月の刊行。「茜」(ややくすんだ赤色)や「萌黄」(薄緑色)などの色がそのまま見られる。

今回あらためてじっくり本書を辞書として引いてみて、わかったことを記してみる。〈ぱっと見てわかる古語辞書〉を目ざしたというだけあって、表組みや図解がふんだんに用いられ、わかりやすくなっている。


⬛️ 山ぎはと山のは

「やまぎは」と「やまのは」の違いは図に示すほうがわかりやすい。わずか一字(「ぎ」と「の」)の違いだが、対照的に用いられている枕草子などは、どう理解すればよいのか。

春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。(中略)
秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに(後略)

枕草子、一

本書では両者の違いについて、「山ぎは」は〈山の稜線に接するあたりの空の部分〉、「山の端」は〈山の、空に接するあたり〉をいうと、囲み記事で説明する。

それだけでなく、図解され、「山ぎは」の矢印(↓)は空から山の稜線へ向かい、「山の端」の矢印(↑)は山から空に接するあたりへ向かう。つまり、「山ぎは」は空に属し、「山の端」は山に属する。

この図をじっと眺めながら、もう一度、枕草子を読んでいると、春は、まだ暗い中で、白みつつある空を見ていて、視線がだんだん暗い山へと移動していることがわかる。秋は、まだ明るい中で、山を見ていて、視線がだんだん暮れる夕日へ向かっていることがわかる。

場所としては同じ山の稜線あたりなのだが、どちら側から見ているかで、感じが違う。確かに、この違いは、図解があったほうがずっとわかりやすい。


⬛️ 源と水門

「みなもと」と「みなと」とは、これも一字違い(「も」の有無)だが、どう違うのか。

本書は「みなもと」(水な本)は〈川水の流れ出るもと、水源をいう〉と、また、「みなと」(水な門)は〈川や海などの水の出入り口、河口をいう〉と、囲み記事で説明し、図を添える。

なるほど、言われてみればその通りだが、「な」は何か。これは〈「の」にあたる上代の格助詞〉と本書は説明する。

つまり、現代語で言えば、水の本と、水の門の違いだったわけだ。本と門の違い。

本書では、このようにたくみに表や図解、漢字表記なども交えて、〈ぱっと見てわかる〉ように工夫が凝らされている。

さて、評者のPDF利用法だが、基本的には紙冊体の辞書を引くものの、別の箇所も開きたいときは、PDFを表示して参照しつつ、紙の本で読む。そうすると、同時に複数箇所を参照できるので、とても便利。

評者の経験では、辞書を引くときはあちこちが見たくなるので、複数箇所がいっぺんに見られるのはありがたい。

#書評 #古語辞典 #図解

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