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[書評] 新約聖書 (7) 共同訳のおどろき

新約聖書のマタイ22章37節の新共同訳「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。」へ疑問をもち、ギリシア語、ヘブライ語を調べたあと、佐藤訳で衝撃を受け、再びギリシア語を考え、関連書をめぐる旅の途中の7回めです。

今回は、新共同訳になる前の共同訳、その名も「共同訳」の新約聖書をみます。1978年に発行されました。底本は『ギリシア語新約聖書 第三版』(聖書協会世界連盟、1975)。

『新約聖書 共同訳・全注』(講談社学術文庫、1981)[堀田雄康 注]

『新約聖書 共同訳・全注』(1981)

なお、「共同訳」の旧約聖書は出ることなく、その後、「新共同訳」として旧約聖書・旧約聖書続編・新約聖書が1987年に刊行されます。

その共同訳新約聖書を見る前に、少しだけ共同訳(Common Bible Translation)の経緯にふれます。

共同訳という聖書翻訳の出発点は、第2ヴァティカン公会議で公布された『啓示憲章』(1965)です。同書において〈プロテスタント諸教会との協力によって、世界の各言語による適当かつ正確な原典訳を行うべきである〉と定められたのです。

つまり、聖書を、カトリック教会とプロテスタント諸教会との協力により、世界の各言語で、正確に原典訳を行うということです。これは、言うのは簡単ですが、大変な作業であるのは想像できます。

日本では1972年に翻訳者と編集委員が決定され、新約については3年計画で翻訳することになったのですが、実際に共同訳新約聖書が出たのは、上述の通り、1978年で、2倍の6年かかっています。

この1978年の版は、固有名詞については原音主義(福音書の最初の本は「マタイオスによる福音」で、イエスは「イエスス」)、翻訳理論については動的等価理論(ナイダ Eugene Albert Nida による dynamic-equivalence Bible-translation theory)によっています。

『新約聖書 共同訳』では、マタイオスによる福音22章37節は次のようになっています。

イエススは答えた。「『心を尽くし、魂を尽くし、思いを尽くして、お前の神である主を愛せよ』(申命6 5)

新約しか入っていないこともあり、ふだんは共同訳をあまり読むことのない私は、この箇所を読んだとき、おもわず心の中で「うぉおおー」と驚きました。〈愛せよ〉の解釈が佐藤訳とは違いますが、その他の点ではほとんど同じです。

この訳し方が広まっていたなら、おそらく、この箇所を読んだ日本人は直読直解したことでしょう。共同訳おそるべしです。

#書評 #聖書 #動的等価 #共同訳

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