[書評]『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの〈叫び〉』
万能鑑定士の凜田莉子を主人公とするQシリーズの完結編。ストーリーとしては『探偵の鑑定 I・II』から続く。
本書は関連シリーズのオールスター・キャストの観を呈する。これまでQシリーズ全20巻や『探偵の鑑定 I・II』(凜田莉子と『探偵の探偵』の紗崎玲奈が出会う)や姉妹編シリーズ『特等添乗員αの難事件』(主人公の浅倉絢奈は先に『万能鑑定士Qの推理劇 I』で凜田莉子と出会っている)を読んできたひとには感慨深いだろう。
ムンクの絵画「叫び」の盗難事件の解決に取組むなか、凜田莉子は鑑定家としての自分の役割について考える。鑑定家はコピアのような史上最大の贋作家に勝てないのか。コピアのつくる偽物は科学を駆使した鑑定をもってしても本物と区別がつかない。彼が偽物を作っていることがわかっていても、鑑定上は完全な複製となるため、罪に問われない。偽物を作っているという証拠が見つからないからだ。
贋作家を廃業した雨森華蓮からは「コピアと関わるな」という忠告を受ける。さらに、「プロポーズを受けても、はいとか、いいえで答えるのは間違い。好きか嫌いで答えて」という謎の忠告も受ける。雨森は莉子の唯一の弱点は男性心理に疎いところだと示唆する。これは莉子と微妙な距離にある友人、小笠原悠斗と関係があるのか。
瀬戸内陸(莉子にロジカル・シンキングを教えたリサイクルショップ店長)は莉子に欠けているのはロジカル・シンキングとラテラル・シンキング(浅倉絢奈から影響された)のあいだを埋めるクリティカル・シンキングだという。「あらゆる物事の問題を特定して、正確に分析することにより、最適解にたどり着く思考法」で、この三つの思考が揃ってはじめて本当の推理が可能になると指摘する。クリティカル・シンキングの極意は自身の論理構成や要旨について内省するところだという。莉子は水鏡瑞季(『水鏡推理』シリーズの主人公)にクリティカル・シンキングの教えを請う。
このように周りからさまざまの課題も受けつつ、莉子は最強のライバル、コピアとの対決を迎える。お互いの人生を集約したような戦いが始まる。はたしてどのような結末が待っているのか。シリーズ最長の416ページあり、最終巻にふさわしい各キャラクターの活躍がたっぷり楽しめる。
松岡圭佑『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの<叫び>』(講談社文庫、2016)