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[書評] このコストパフォーマンスは何だ!

日下部・澤野・杉浦・鈴木・山川編『山川 詳説世界史図録 第4版』(山川出版社、2021)

日下部・澤野・杉浦・鈴木・山川編『山川 詳説世界史図録 第4版』(2021)

愛すべき本だ。

歴史地図をいろいろと眺めているが、これほど内容が充実していてこれほど安価な本は見たことがない(定価946円)。

全359頁。地図や図版はほとんどカラー。高校の世界史B教科書『詳説世界史 改訂版』(山川出版社)に準拠。各テーマのタイトル横に『詳説世界史』の教科書頁が書いてある。

評者は教科書のほうは使わず、もっぱら世界史地図として本書を見ている。

本書に掲載された写真・グラフ・地図を読み解くための設問が所々にある(「Q」のマーク)。これに対する解答例と解説のファイルが山川出版社のウェブサイトの 本書のページ にあるので、ダウンロードして参照すると便利だ。

例えば、本書14頁にエジプト第18王朝の図版として「アトン神」が載っている。丸いものから光線が出ているような図で、お、これはと思うと、「Q」が付いていて、〈アトン神はどのように描かれているだろうか。〉と、設問が書いてある。

評者の関心にどんぴしゃなので、さっそく解答例・解説を見ると次のように説明されている。

アトン神信仰 Q 従来の神々は人や動物の姿で描かれたが,
アトン神は日輪と太陽光線で表現された。

なるほど、そうすると、それ以前に信仰されていたアメン神のほうは、たぶん人や動物の姿で描かれていたのだなと、見当がつく。

本書にはアメン神の図版がないので、手許の本で調べると、〈アメン神は人間の姿で描かれましたが、ヒツジの姿の時もあります〉とあった(『ゆるゆる神様図鑑 古代エジプト編』)。どちらにしても、人や動物の姿で描かれていたわけだ。

エジプト関連でもうひとつ挙げると、本書には特集ページがあり、〈地球環境と世界史〉〈感染症と世界史〉などの今日的なテーマに加えて、〈記録の歴史〉の特集がある。

そこに〈古代文字の解読〉の項があって、〈ロゼッタ=ストーンによる古代エジプト文字の解読〉の図版があるのだ。そこに、ロゼッタ=ストーンの写真とともに、シャンポリオンの解読のきっかけとなった「プトレマイオス」と「クレオパトラ」のヒエログリフの図解が載っている。

これは大変興味深い。ヒエログリフについて多少なりとも学んだことのある人には、これだけで、なるほどと、頷かされる説明だ。

この項には、古代文字解読の歴史をしめす表がある。ヒエログリフ(神聖文字)の解読年は1822年であることがわかる。

ところが、表のなかに、2つほど、未解読の文字がある。

インダス文字と線文字A(エーゲ文明)だ。後者は図版がないが、前者のインダス文字は図版がある。

インダス文明の遺跡は、評者は「モヘンジョダロ」と教わったが、本書では「モエンジョ=ダーロ」と書いてある。

ところが、その名前は〈死者の丘〉の意味とされるが、本来の名前が実は知られていないことも書かれている。〈本来の都市名はインダス文字が未解読で不明である〉とある。

このように、本書はどこをとっても網の目のように関連しており、読み出すとやめられないくらいおもしろい。

本書は2021年12月25日に発売されたが、巻末の年表をみると、一番新しいもので2021年7月の東京オリンピックまで載っている。

#書評 #歴史地図 #世界史 #古代文字


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