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[英詩]Bob Dylan, 'Make You Feel My Love'

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

英詩のマガジン の本配信、今月3本目です。歌われる詩の2回めです。今回はボブ・ディランのアルバム 'Time out of Mind' (1997年、下) に収められた 'Make You Feel My Love'です。ディランが55歳の頃の作品です。

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同アルバムの他の歌と違い、失恋や裏切りや老残などは扱わず、隠された意味のないラヴ・ソングであると、マルゴタンらは言っています。感情を露出した詩で 'I could offer you a warm embrace' とか 'I could hold you for a million years' などと語り手が表現していると。めずらしいですね。

アルバムがでる1ヶ月半まえにビリー・ジョエルのカヴァー・シングル 'To Make You Feel My Love' が出て、ビルボードで9位になりました (Adult Contemporary 部門、下)。

動画リンク [Billy Joel, 'To Make You Feel My Love' (Official Video)]

録音は1997年1月 (マイアミの Criteria Recording Studios)。プロデュースは Daniel Lanois で、録音エンジニアは Mark Howard.

次の参加ミュージシャン。

Bob Dylan - vo, p
Daniel Lanois - g
Augie Meyers - org
Tony Garnier - b

(vo: vocal, p: piano, g: guitar, org: organ, b: bass)


ヘイリンは辛口で、本歌はアルバムを占める失恋や裏切りの歌とバランスを取るために書かれたと断じています。ティン・パン・アリのようなポピュラー音楽風の歌作りを目指したところで、元フォーク・シンガーの手には余ると、厳しい評価をしています。2000年冬のライヴでも何ら深みを引出すことができなかったと (Clinton Heylin, 'Still on the Road: The Songs of Bob Dylan 1974-2008', 2010)。

本歌が多くのアーティストにカヴァーされていることは事実です。たとえ、ヘイリンのいうようにポピュラー音楽の「名曲」とはなり得ていないにせよ、次の Adele の歌唱などを聴くと、少なくとも唄う人が唄えば、愛唱するに足る曲とは言えるのではないでしょうか (Adele は公式サイトにある歌詞ではなく、下に掲げるディランの歌唱通りの歌詞で唄っています)。

動画リンク [Adele, 'Make You Feel My Love']

本当はどんな歌なのでしょう。歌詞はまともな分析にも値しないのでしょうか。詩テクストをリクスらの校訂版に準拠して考えてみます。

参考文献 は、文字数の関係で別の note にあります。

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(202105)」へどうぞ。

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【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として新しい方から2番めのノーベル文学賞詩人です。(最新のノーベル文学賞詩人 Louise Glück もときどき取上げます)
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

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まとめ

ボブ・ディランの 'Make You Feel My Love' は、陳腐なラヴ・ソングと見なすヘイリンらの意見もあるが、はたして妥当か。少ない語数で広がりのある内容を表す圧縮技法や、仮定法と直説法の使い分け、blow という動詞の変奏などを通して丁寧に捉えると、また違った面が見えてくる。

動画リンク [Bob Dylan, 'Make You Feel My Love' (Official Audio)]


Make You Feel My Love
Bob Dylan

1連

When the rain is blowing in your face
And the whole world is on your case
I could offer you a warm embrace
 To make you feel my love

(注)
the rain is blowing in your face cf. The wind blew rain into [in] his face「風が雨を彼の顔に吹きつけた」
is on your case cf. be on the case「〈検事・警察官などが〉事件を担当する」「事に対処している」 cf. be/get on a person's case「人にうるさくする」「悩ませる」「困らせる」「他人事に干渉する」「批判する」「しつこくつきまとう」「人のことにちょっかいを出す」「余計な口出しをする」「いらぬ世話をやく」「あれこれ口を出す」

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