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[書評] 黄金比とストーンヘンジ、ピラミッド

アルケミー『黄金比は次元を超える 第2章 古代遺跡の設計の秘密』(2022)

アルケミー『黄金比は次元を超える 第2章 古代遺跡の設計の秘密』(2022)

分冊版第2章は、2つの古代遺跡に黄金比を探る。1つはイギリスのストーンヘンジで、もう1つはエジプトのピラミッドだ。

ストーンヘンジは評者も訪れたことがあるので興味深く読んだが、同じ遺跡を見てもこうも見るところが違うのかと驚いた。評者は現地のガイドに巨石の地下の部分について訊いて、それは鍼灸の針のような効果を大地に対して意図しているのではとの話が出た。が、著者は、そういう一般的に関心を集める石のほうでなく、その周りの濠と盛り土のほうに目を向ける。そちらのほうが石より時代が500年くらい古いのだ(環状列石の配置の時期は紀元前2500-2200年頃)。

結論から言えば、その濠と盛り土の構造にも、ばっちり黄金比は当てはまる。著者の黄金比と古代遺跡に関る調査内容は、2016年の第8回世界考古学会議でも発表されたという(World Archaeological Congress [WAC-8], Kyoto)。

本書によれば、ストーンヘンジの盛り土と濠(紀元前3100年頃)の配置は、黄金比に回転をかけた図形を左右に複写し上下に反転複写した図形(著者はG-2と命名)の境界線と重なる。

さらに、G-2を90度に回転複写させた図形(G-4)が、ストーンヘンジの内部のYホール、Zホールと呼ばれる二重の輪と見事に符合する(Y and Z Holes, 1923年に発見された[English Heritage財団によると、そこにある鹿の角の放射性炭素測定をしたら紀元前1800-1500年だったという])。

〈イギリスの古代遺跡『ストーンヘンジ』の設計が黄金比であること〉を著者は導き出したのである。

結局、紀元前3100年頃から紀元前1800-1500年に至る千年以上ものあいだ、この世界遺産の遺跡の設計思想に、明らかに黄金比が入っていた(G-4に45度の回転をかけたG-8をベースとして造形した)ことになる。驚くべきことだが、このことが報道されたという話は聞いたことがない。

たとえ国際会議で発表されたとしても、それが一般の人にも知られるようになるのは長い時間がかかるということかもしれない。ともあれ、著者が勇断をふるって本書を発表してくれたことは有難い。

著者は、事前に調べた(G-8がクフ王のピラミッドやカフラー王のピラミッドと重なることから、G-8がギザ地区の設計に用いられたと想定した)うえで、2015年2月に、エジプトのギザ地区のピラミッドやスフィンクスを取材する。

評者が驚いたのは、スフィンクスの両足の間にある、ヒエログリフが彫られたレリーフの碑文の内容だ。紀元前14世紀頃の新王国時代の話が書かれているという。スフィンクスは長いあいだ胴体が砂に埋もれて首だけが見えていたが、その時代も、身体が砂のなかに埋もれていた。

その「夢の碑文」には、スフィンクスの横で休むうちに眠りに落ちた青年の夢に、スフィンクスが現れて告げた言葉が書かれている。

〈私の身体は長い間,砂の中に
埋もれたままになっている。
もしこの砂を除いてくれたなら,
将来あなたがこのエジプトを治める
王となることを約束しよう。〉

青年は夢から覚め、砂を除いた。のちのエジプト王トトメス4世(在位 紀元前1419-1386年頃)である。王はスフィンクスの足元に夢の碑文を刻んだレリーフを建てた。

その碑文の外形は、本書によれば、2次元の黄金比で作られていた。つまり、1 :  1.618 の黄金長方形だった。

さらに、「トトメス」(Thothmes, Thutmose)の名に、〈トート神(ヘルメス)が生み出したもの〉の意があることを、本書は指摘する。

スフィンクス本体については、輪郭がG-2と重なるように見えるものの、〈経年劣化が激しく、設計者が使った黄金比の位置に合わせるのは難しいと感じました〉と書いてある。

あー、残念と思っていると、著者は〈補助的な意味で、カイロ博物館前のスフィンクス像と黄金比の一致を検証〉しに行く。これも古代に作られたものという。すると、G-2に一致することが確認できたと。本書は、このように、検証の仕方が丁寧で、頼もしい。

本書で圧巻なのは、アブ・シンベル大神殿(エジプト南部)のラムセス2世像に、黄金比(G-4の図形)の線が、大きさをどのように変えても重なることを示した点だ。

ここで、本書でたびたび引用される、錬金術の基本原理を表す次の言葉が著者には浮かんだという。

上にあるものは
下にあるものの如く

下にあるものは
上にあるものの如し

錬金術の基本原理

そこで、著者は〈この基本原理は黄金比が小さくても大きくても,無限にシンクロされる特性と関係があったのだ〉と考える。

この無限性は、ツタンカーメン王(トトメス4世のひ孫)の遺品を調べても出てくる。

ツタンカーメン王の棺は、王のミイラの周りに、人型棺、石棺、厨子と、外側に棺が幾重にも重なっていた(図を見ると、マスクの外側に棺・厨子が8層ある)。つまり、マトリョーシカ人形のエジプト版みたいなものだ。

そのうち、ミイラのすぐ外側の黄金のマスクについて、G-2 との重なりを著者は確認する。評者は日本で展示された際(ツタンカーメン展)にこの黄金のマスクを見たことがあり、圧倒的な存在感を感じたことを憶えている。

また、全身でデザインされている人型棺でも、G-2 と重なる。

ここで、著者は、ツタンカーメン王の棺は〈この無限性の特性を、入れ子の形状を用いて表現しているのではないか〉と考える。

〈王の埋葬にこの特性を使用していることは,黄金比がいかに古代エジプト人にとって重要な知恵であったかを物語〉ると、本書は指摘する。

厨子については検証に使える写真が入手できなかったので検証できなかったという。

〈錬金術の基本原理〉として上に引用された言葉は、「エメラルド・タブレット」の言葉として有名である。

著者は、次に、〈この基本原理を説いたトート神(ヘルメス)が残した智慧がどのようなものであったのかを,より深く知っていく必要がある〉と考える。

#書評 #黄金比 #錬金術 #トート神 #ヘルメス

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