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書評集
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#国史

[書評] 果てしない学びの書

詳説日本史図録編集委員会『山川 詳説日本史図録 第9版』(山川出版社、2021) 一家に一冊級の本。 全376頁。美しいカラーの図版や地図が時代やテーマごとに整理されて配置されている。高校の日本史教科書『詳説日本史 改訂版』(2017)に準拠。 この内容の充実度からすると、安いと言える(定価946円)。およそ日本の歴史に関ることを、目で見て確かめたいという用途のためだけでも、一家に一冊備えておく価値はある。 同じ出版社から出ている世界史図録と比較すると、こちらは、日本

[書評] 文化には力がないと考えるかもしれないが、むしろ文化が政治を動かす

田中秀道『日本国史・下——世界最古の国の新しい物語』(育鵬社、2022) 政治中心に綴る歴史書が多い中で、本書は異色だ。文化を中心に歴史を描き出す。さらに、最後には、国家間のかかわりとしての世界史でなく、〈国と国との間に立って動き回る人々〉にまでふれる。まことに異色の歴史書だ。 * 〈文化には力がないと考えるかもしれませんが、むしろ文化が政治を動かしたのです〉と著者は述べる。 これは何についての記述かと訝しむ向きもあろうが、実はこれは源頼朝の行動についての言葉だ。

[書評] 新しい歴史として日本の歴史を描く

田中秀道『日本国史・上——世界最古の国の新しい物語』(育鵬社、2022) 本書は美術史家の著者が新しい歴史として国史(日本史)を書いたもの。上巻は旧石器時代から平安時代までを扱う。 美術史に関る部分は、類例がないほど鋭く、参考になる。 〈新しい歴史〉としての二つの主張(「日高見国」と「大和時代」)は、まだ国史の分野では奇異の目で見られているかもしれない。 まだ評価をあまり得ていない理由は、おそらく史料や資料の扱い方にあるのではないかと思われる。例えば、長浜浩明氏は『日

[書評] 諭吉の母お順は情け深く一視同仁

竹田恒泰『中学歴史 平成30年度文部科学省検定不合格教科書: 検定不合格』(令和書籍、2019) 本書は、いろいろな点で興味深い。 まず、中学の歴史教科書で検定不合格になった書として。巻末に文部科学省の検定不合格の理由書が附いている。そこに欠陥箇所として、学習指導要領に示す社会科の目標(「諸資料に基づいて多面的・多角的に考察」)に一致していないとあるのを見て笑ってしまう。 著者が孝明天皇の公式記録である『孝明天皇紀』全220巻をふまえていることを知ったうえでの指摘なら、

[書評]日本国史学 第14号

日本国史学会「日本国史学」第14号(2019) 日本国史学会の学会誌「日本国史学」第14号に掲載の田中英道の論文「ユダヤ人埴輪をどう理解するか」について。 本論文を元にして、秦氏研究の構想を加え、口述体でまとめた書が『発見! ユダヤ人埴輪の謎を解く』(2019) であった。論文であるので、注釈や参照文献が詳細であること、誤記ないし校正漏れがより少ないことを期待して読んだ。前者は満たされるが、後者はそれほどましとも思えない。学会誌だが、編集委員会の方針なども明記されていない

[書評]『発見! ユダヤ人埴輪の謎を解く』

田中英道著『発見! ユダヤ人埴輪の謎を解く』(勉誠出版、2019) 「日本国史学」14号(2019)に掲載された論文「ユダヤ人埴輪をどう理解するか」を元にして、秦氏研究の構想を加え、口述体でまとめた書。まとめる段階で勉誠出版の編集が加わっていると思われる誤記ないし校正漏れが散見する点を除けば、大変読みやすい。 全179ページの小著に見えるが、中身がぎっしり詰まっており、一読したくらいでは内容を整理するのがむずかしいほど重層的な歴史が述べられている。 * ただし、これを