食事の好き嫌いを脳で考える話
なぜ食品に好き嫌いが生まれる?
前回は記憶の中でも実生活に大きな影響を及ぼす仕事や勉強について考えてみました。今回はもっと生活に密着した話。そして同時に、誰にでも関係がある話です。
普段目にする食べ物はいろいろありますが、その中でも「これは苦手」というもの、ありますか。程度の差はあっても、多くの人は何らかの好き嫌いはあるでしょう。ただし、アレルギーを除きます。こればかりは気をつけておかないと、それこそ命に関わりかねませんから、無理強いや面白半分なんていうことは絶対にしないでください。
さて、子供の頃には好き嫌いがたくさんあったという人は多いでしょう。この話題で特によく挙がる食品は、ピーマン、ニンジン、グリンピースあたりでしょうか。他にも挙げていけばキリがないかもしれません。ところがその嫌いな食品、大人になるにつれていつの間にか食べられるようになっている、そんな事って経験ありませんか。場合によっては嫌いどころか、い
のまにか大好きな食べ物になっていたりすることさえあるようです。
あるサイトには、「人間には酸っぱいモノや苦いモノは毒かもしれないと考えて本能的に拒否すると言われている」、こんな文章がありました。これ以外にも、食わず嫌いという人がいたり、子供の頃にはダメだった食べ物が大人になって好物になったり、食に対する感覚には不思議なことがたくさんありますよね。
初めての食べ物に出会った時、皆さんは直ぐに口に出来ますか。恐る恐るといった感じで口に運ぶのではないでしょうか。人によっては拒否するかもしれません。この場合は「新奇性恐怖」という名前がついていて、初めて目にしたモノが食べることができるのかどうか、食べられるとしても美味しいのか危険なのか、その辺りが全く判断がつかないので、恐る恐る少量だけ口に入れてみる、そうなるわけです。
好き嫌いと内臓との関係
初めて食べた物の味や食感はどうでしょうか。そしてお腹の具合はどうでしょうか。味覚に問題が無ければ、味や食感なら分かるでしょう。お腹の具合いが分かるまでにはしばらく時間がかかりますが、その状態は脳に信号として送られます。お腹が痛くなったとか、気持ち悪くなったとか、そんな感覚を信号として内臓や腸から脳に信号が送られるわけですね。それによって、この食べ物は安全かどうか、自分にとって食べてよいかどうかを経験として知ることになります。
そして食べて良い物と判断すれば、次からはもっと多くの量を食べることができるようになりますし、止めた方が良いと判断した場合は、以後食べなくなります。こうやって一つ一つ経験を積み上げていきます。
初めて口にする食べ物についてはこのようなメカニズムが分かっていますが、既に経験があって食べて良い物が嫌いになるという話があります。例えば、好きであったはずのある食べ物が傷んでいたために、食べたらお腹を壊したという場合です。すると、お腹を壊して不快だったという新たな経験が、それまでの好物だったという記憶を変えてしまう、上書きして「イヤな食べ物」になってしまいます。するともう食べなくなってしまうんですね。このような現象を「嫌悪学習」と呼ぶのだそうです。もちろん、この逆のパターン、嫌いで避けていた食べ物が何かの拍子に好きになる、こんなこともあります。
好きと嫌いを判断する
好きと嫌い、何か思い出しませんか。脳の中にある扁桃体ですね。ここは感情に関わる判断をする場所ですから、食べた物の味や匂い、過去の経験などから、好きなモノ、あるいは嫌いなモノ、絶対にダメなモノなどの判断を下します。加えて、内臓からの信号の判断もします。そしてこれらが関連付けられて、好き嫌いが決まっていくのですね。
なぜか分からないが好きという場合、幼いころによく食べた物と同じ味、あるいは似たような味なので安心して食べることができる、そんな例があるかもしれません。子供の頃の話なんて覚えていないかもしれませんが、好きや嫌いの感覚であれば記憶にしっかりと刻み込まれています。この部分は自分で何とかしてきたのではなく、家族や環境からの影響が大きいでしょう。その地域独特の食べ物や味付けなどもありますから。
おいしいと感じる味を調べてみたところ、甘味、塩味、うま味なのだそうです。甘味は糖分ですから体のエネルギーになるもの、塩味はミネラル(塩)ですね。うま味はアミノ酸、つまりたんぱく質になりますから、身体を作るうえでは必要不可欠なもの。そうだとすれば、苦みや辛味は嗜好物と捉えてもよいでしょう。子供の頃はどうしても嫌いになる傾向があります。子供は一般に甘味が好きですから、苦みや辛味を嫌いに感じることも出て来ます。特に「嫌い、嫌う」といった判断は、自分を防御するうえでは必須なので、ある程度は仕方がないかもしれません、「ある程度は」ですよ。
嫌いを好きにするには
嫌いの感情の要素を考えてみると、人によって異なるかもしれませんが大雑把に捉えたとすれば「口にした回数と嫌いの度合い」になりそうですが、どうでしょうか。
「嫌い」はイヤな経験をすることで形作られます。多くは自分の体の状態が悪くなる(お腹を壊すなど)ため、一回で嫌いになってしまいます。
その反対に「好き」に変化するためには、何が起きているでしょうか。まず、口にするというハードルが下がること、そして何度も口にする、食べてみる機会があること、この二つが関係しそうです。見た目や味付けを変えてみてハードルを下げるなどの工夫が必要かもしれません。それに加えて、何度もそれを食べるという機会があること。会食などで残すとみっともないような場面はなかなかありませんが、それでも工夫次第です。そうやって学習をして記憶を書き換える、そんな事が出来れば好き嫌いはかなり減ってくるでしょう。
好き嫌いは栄養面でも不利になることがあるかもしれません。その意味でも、なるべく好き嫌い、更には偏食を少しでも減らしましょう。
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