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肝機能検査、ASTとALTの話

何を調べるか

ASTとALTは何を調べる検査なのかの話の前に、先ずこれらはいったい何なのかといったことについて書いていきます。
かつてはGOTとGPTの2つの名前をよく耳にしたものでしたが、最近はこの名前を聞かなくなりましたね。ご存じの方も多いと思いますが、GOTはASTに、GPTはALTに、名前が変わりました。これはただ、慣用名から国際基準の名称に変更になったというだけで、内容は何ら変わっていません。そのため、医療機関を受診した時に行なう血液の検査結果の表記などでは、「AST(GOT)」「ALT(GPT)」となっているのが一般的です。

さて、本題の何を調べるかですが、ズバリ肝機能の様子を調べています。実際には、ASTもALTも肝臓の細胞の中に含まれていて、血液中にはわずかしか存在していません。これらは全部「酵素」と呼ばれるたんぱく質で、肝臓の細胞の中に多く存在しているものです。その細胞が炎症などによって壊れることで中の酵素が細胞外に出てきて、血液中の濃度が高くなる、これを測定して普段の数値と比べることで、肝臓の状態を知ろうというものです。

この場合の「酵素」とは健康食品などに関連した名称の「酵素」ではなく、純粋に生化学の教科書などに出てくるたんぱく質の名前で、ある物質に対して働きかけて別の形に分解したり合成したりする、そんな働きをもつ体の中の物質のことです。

じゃあ、なんで2項目もあるのか、使うのかという疑問が出てくるかもしれませんね。じつはこの2項目、微妙に違いがあって、その違いを利用して数値を読み解くと、いろんなことが分かるんです。

この2項目、何が違うのか

肝臓の状態を知るうえで、どちらがより参考になるでしょうか。じつはALTの方が、より肝機能を反映するとされています。ALTは肝細胞には含まれていますが、それ以外の細胞ではあまり含まれていません。それに対して、ASTはいろいろな細胞に含まれています。特に代謝が活発であろうという幾つかの細胞が有名です。肝細胞は当然ですが、手足を動かすための骨格筋(横紋筋)、心臓を作っている心筋、あとは赤血球、こんな細胞に多く含まれています。

ですから例えば、手や足が腫れあがるほど強くどこかにぶつけてしまったりした時、ぶつけたことでその筋肉を作る細胞が壊れてしまうと、しばらくしてASTの数値は上昇します。

あっては困りますが心筋梗塞の時も、ASTの数値は上がります。この時も、心筋が死んで壊れてしまうために、中のASTが血液中に出てくるためです。

それ以外、溶血と呼ばれる現象が起きることがあります。通常、採血をした後に血液をしばらく静置して凝固させることが頻繁に行われます。難しい言葉かもしれませんが、要は血を固まらせるということを試験管の中で行うわけです。そうすると血液は血清と血餅に分かれるので、その血清を用いて血液の検査を行うのです。その血清、本来は淡黄色なのですが、赤血球がたくさん壊れてしまうと血清が赤く染まってしまいます。これが溶血と呼ぶ現象で、これがあるとASTの数値は上がります。体のどこにも異常が無かったとしても、数値は上がってしまいます。これではキチンとした分析が出来ませんので、もう一度採血をやり直すことになってしまいます。

今あげた溶血を含めて、心臓や筋肉のトラブルがある場合ではASTは数値が上がりますが、ALTの方の数値はあまり上がりません。しかし、肝臓のトラブルであればしっかりと数値が上昇します。ASTやALTの反応の違いや患者さん本人の様子などから、医師はいろいろと考えて検査をして確かめたうえで、次の処置に進むのです。

それにしても、よく見かける

ASTやALTは昔からよく使われてきた項目でした。もちろん当時はGOTとGPTでしたが。これは肝臓が沈黙の臓器と呼ばれるほど、痛みを感じにくい臓器であることから、何かトラブルが起きていてもなかなか分かりにくいという意味が大きかったと言えます。同時に、先に挙げたようにその他のこともいろいろ分かりますから、便利だったという事も挙げられるでしょう。これに他の項目を組み合わせることで、全身のいろいろなことが分かって来るのです。

さて、ASTやALTに限らず、調べてみた結果では特に異常が無かったとすると、調べたことは意味が無かったのでしょうか。じつは大事な意味があったんです、「何も起きていないようだ」という意味が。

ご自分の体のことで考えてみてください。もし体に不調があって医療機関を受診したとして、関係しそうな臓器について調べる検査がある場合でも、この症例ではおそらく別の理由だろうからこの検査は要らないとなったら、どうでしょうか。キチンと調べてよと言うのではないでしょうか。

この検査は調べてみたが特に異常は見当たらなかった、だから今は考えなくて良い。次の検査では・・・と、論理的にキチンと筋道を立てて処置をしていかないと、間違って見落としがあったりしたら大変ですよね。そうならないために、ちょっと無駄に思えるかもしれないような検査でも、時には行う必要があったりするんです。そうして、この時点ではこうだったという証拠を残して次に進む、見落としがないようにするためです。

いつもいつも同じ検査ばかりやっているように感じることもあるでしょうが、ちゃんと意味があって行なっている事なので、疑問があれば医師に尋ねてみるとよいでしょう。


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