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参加イベントに向けた資料翻訳

内容

 あおもりグローバルアカデミーのイベントに参加するに辺り、事前配布資料の日本語訳を掲載しておきます。参考になる人は限られると思いますが、参考になれば、幸いです。尚、個人的に資料の訳をする際のsとzの細かい使い分けが興味深かったです。(例:globalizationをglobalisation、visualizationをvisualisation、OrganizationをOrganisation等)

英語の原文は以下のリンクよりアクセスしてください。

1.4 ネットワーク社会

 ネットワーク社会の概念は、グローバル化の社会的意味合いや社会における電子通信技術の役割の解釈と密接に関連している。ネットワーク社会の定義は、この概念の第一人者であるマニュエル・カステルズ氏(Manuel Castells, 2004 p. 3)が、「マイクロエレクトロニクス(日本語:微細電子工学)を主体とした情報通信技術を動力源とするネットワークによって社会構造が構成されている社会」であると述べています。カステルズ氏が著書の中で示しているように、歴史的には常に社会的ネットワークが存在しており、ネットワーク社会を特徴づける主要な要因として、ICTの活用による新しい種類の社会的関係を生み出し、遠く離れたネットワークの創造と維持を手助けするのである。カステルズ氏曰く、20世紀後半にこのような新しい社会構造が出現したのには、3つの過程があったという。

3つの過程

自由市場経済への対応に向けた産業経済の再構築

公民権運動、フェミニスト運動、環境運動などの1960年代後半から1970年代前半にかけ起きた自由指向の文化運動

情報通信技術における革命

これら 3 つの過程の重要性に関するのカステルズ氏の分析は、次の節で論じる開発パラダイムのための大まかな歴史的文脈を提供している。(この項では、カステルズ氏のKey Readingsにて詳細が記載されている)経済再編の意義は、それが開放市場の開発というパラダイムを出現させる条件を形成し、国民国家を弱体化させ、国家間や国家内での社会的包摂と排除の過程を深化させたことにある。文化運動は、人権に焦点を当てた対立的な「人間の能力中心に置いた」開発パラダイムの出現のための条件を形成した為、重要であった。この文化的な変化によって支持を獲得した個人の自律性と自由の価値観は、コミュニケーションに必要なオープンなネットワーク構造を形成した。カステルズ氏は結論として、「自由の文化はネットワーク技術を誘導する上で決定的なものであり、ひいては、グローバル化の観点からビジネスが再構築を行うための不可欠なインフラとなった」(Castells 2004 p. 22)と締めてます

クラーク氏の博士論文(2008年)でのボリビアの農村部における情報ネットワークへの関心は、カステルズ氏の研究を大いに参考にされている。彼女はボリビアの農村部における農業情報の流れを分析するために社会的ネットワークのアプローチを用いた(1.4.1参照)。

1.4.1 ボリビアにおける情報の流れ:
ソーシャルネットワークによるアプローチ

 農村開発の過程には、専門分野や資源へのアクセスが異なるアクターの複雑なネットワークが関わっており、地理的・文化的な制約に直面する場合が多く、共通の目標に向けた知識の共有や協力の可能性が制限されている。開発の促進には、情報の流れを増やし、より良い調整を促すための社会資本を構築するためにも、関係者間の連携を強化する必要があります。開発のためのICTの可能性への関心が高まっているにもかかわらず、ネットワーク強化のためのコミュニケーションを促進するICTの役割は、接続性やデジタル・デバイド(日本語:情報格差)をめぐる技術的な議論や、情報へのアクセスを改善することで得られる利益についての議論に比べて、あまり注目されていません。新しい技術や情報にアクセスしたからといって、開発に必要な情報や支援を提供可能な他のアクターの意識が高まるとは限らない。したがって、ICTプロジェクトの可能性は、農村部グループが新たな資源や機会にアクセスできるような、より広いネットワーク構造の中でつながりを構築し、自分たち自身を定着させることを支援することにある。

ネットワーク構造が開発介入にどのような影響を与えるかを説明する実証的なツールはほとんどない。本論文では、社会的ネットワーク分析(SNA)を用いて、ボリビアの農村部におけるサプライチェーンの情報の流れとイノベーションの過程を可視化した。SNAを3つの農業サプライチェーンに適用させ、異なるアクター間の情報の流れを表現した。2つ目のケーススタディでは、このアプローチをイノベーションの過程に適用し、2モードネットワークマップの概念を導入して、アクターとイノベーションの関係を可視化した。この研究は、診断ツールとしてのソーシャル・ネットワーク・マップの有用性を実証的に証明した。関連するICT介入でこれらの結果を議論すると、ネットワーク関係の可視化は、アクターがICTのコミュニケーションの可能性を活用するために、ソーシャルキャピタル(日本語:社会関係資本)の概念を理解するのに役立つ強力なツールを提供することが実証されている。(p. 2)

クラーク氏は社会的ネットワーク分析ソフトウェアを用いて、ボリビアの農村部において、異なるネットワーク構造とそれに伴う情報の流れがどのように変化しているかを示した。性別や民族の違いによってネットワーク構造を特定した彼女のネットワークマップ(pp. 194-196)の例で示されてる。

5.2.3.1 性別・民族別の所属

 これらの構造をさらに理解するため、データをさらに細かくし、男女間や先住民やカンペシノのコミュニティ内での所属の違いを調べることが可能である(Figure 5-19 & Figure 5-20)。Table 5-13 は、回答者を性別・民族別に分けたものである。

Table 5-13:性別・民族別回答者数

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Figure 5-19 とFigure 5-20 の両方にて、先住民族とカンペシノ族の間に強い分裂が見れることを観測できる。ジェンダーがネットワーク構造にどのように影響を与えるかを検討することで、どのような所属が男性もしくは、女性に特有のものであるかを見ることができる。Figure 5-19 では、先住民族の女性の基礎構造の中心的なノードは APG(グアラニー人の議会)であり、副次的な役割はアバティレンダと女性ワーキンググループが担っている。カンペシーノの女性にとって、2 つの最も中心的なノードは OTB(領土基盤組織...)と生産者組合である。2 つのグループの間には、現在、母親センターと落花生協会という 2 つの類似した所属があるだけで、両民族グループにおい て、女性はトウモロコシや豚の飼育よりも落花生製品に関与していることを示唆している。

Figure 5-20 は、男性の所属を示しており、どちらの組織も最も中心的なノードという点では同じパターンをたどっている。しかし、先住民グループであるアバティレンダでは、トウモロコシ収集センターの方が APG よりも影響力があるように見え、男性作業グループにも重要な役割がある。上述のように、これらのグループは必ずしも 2 つのグループ間に正式な所属関係を示しているわけではないが、2 つの下部構造の橋渡しをする 3 つのグループがある。興味深いことに、母親センターはもはや2つのグループ間の架け橋となる役割を果たしていないが、このグループに所属していると考えている数人の男性によって、いまだに言及されている。さらに、マザーズ・センターの女性関係者がOTBの名前を挙げているのに対し、男性は両方のグループの名前を挙げていないことから、その構造的な位置も変化している。同様に、CAREの女性グループについても、女性よりも男性の方が多く言及しており、これらのグループが比較的周辺的な位置にあるにもかかわらず、これらのコミュニティへの介入のための重要な入口となり得ることを示唆している。

Figure 5-19

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Figure 5-20

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ネットワーク社会における
包摂(Inclusion)と排除(Exclusion)

 ネットワーク社会の概念で重要な側面は、特定の社会(それが国家であれ地域社会であれ)が、生産、消費、コミュニケーション、権力を構成するグローバルなネットワークへの包摂と排除によって深く影響を受けているということである。カステルズ氏の仮説は、排除は技術の変化が地球上のすべての人を包み込むことで徐々に淘汰されていくだけの現象ではないというものです。 誰もが携帯電話を持っているという例が示すように、彼は、排除はネットワーク社会に組み込まれた構造的な特徴であると主張している。

これは、ネットワークが包摂と排除の上に成り立っているからである。ネットワークは、その任務に価値のある人や資源を取り込み、その任務の遂行にはほとんど価値のない、あるいは全く価値のない他の人や地域、活動を排除することに基づいて機能する(Castells 2004 p.23)。異なるネットワークは、排除と排除の根拠や地理的な違いを持っている-例えば、シリコンバレーのエンジニアは、犯罪者ネットワークとは全く異なる社会的・領域的空間を占めている。

カステルズ氏(2004 p. 29)によれば、ネットワーク社会における最も基本的な分断は、先にグローバル化の文脈で論じた、労働の分断と貧困の罠である。カステルズ氏は、これらを「ネットワーク社会にとって革新と価値の源泉となる人々、指示を実行するだけの人々、そして労働者として(十分な教育を受けていない、グローバル生産に参加するためのインフラが不十分な限界地域に住んでいる)、あるいは消費者として(グローバル市場に参加するには貧しすぎる)、無関係な人々」の間の分断として特徴づけている。

ネットワーク社会におけるパワー(能力や権限)と
エンパワーメント(能力開化や権限付与)

さまざまな種類の社会的・コミュニケーション・ネットワークからの排除と包摂によって特徴づけられる社会構造において、パワーは社会変化の重要な決定要因である。パワーとは、自分の意志を他の人の意志に押し付ける能力と定義することができる。ネットワーク社会の概念では、権力の主な形態は、コミュニケーションに対する支配や影響力を指す

これは、ネットワークへの接続性とアクセスが、ある社会集団が自分たちの価値観や目標を社会全体に押し付けたり、他の社会集団が自分たちの支配に抵抗したりするための力に不可欠だからである。

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1.4.2 パワーとエンパワーメント?
バングラデシュ・ダッカのケーブルネットワーク

ネットワーク社会では、グローバル化がもたらす最も重要な影響の一つは、経済的、社会的、政治的な関係が、いつでもどこにいるかの言い換えると、空間的な位置に縛られることが少なくなってきていることである。これまでの社会では、異なる社会的関係、習慣、文化が別々の空間に存在し、個人は最も強力な期待やルール、例えば家族、村、町、都市、国家などに従わなければならない。一方、グローバル化社会では、これらの空間は個人を拘束する力を失ってい、人々はマスメディア、電話、ファックス、コンピュータなどのグローバルなネットを介して個人的な接触なしにコミュニケーションをとることができ、共通の歴史や共通の顔の見える関係によるつながりは少なくなっている。同時に、既存の伝統は、遠く離れた価値観や知識の形態との接触や影響を避けることはできない。

どのように場所の社会的意義におけるこの変化をどのように解釈するかは、「コミュニケーション」をどのように解釈するかにかかっている。

・もし、コミュニケーションが、新しい情報やアイデアを無批判に吸収する受動的な受け手への新しい情報の予防接種のような「一方通行なもの」と見なされるならば、個人や地域社会は、外部からの知識や文化のコミュニケーションによって力を失ってしまう可能性がある。

・もし、コミュニケーションが、新しい情報が積極的に解釈され、情報の意味を形成するために積極的な役割を果たす受信者によって選択的に利用される過程として捉えられるならば、個人や地域社会は、新しいアイデアの流入によって力を得ることができる。コミュニケーションや知識共有の革新的な形態を開発する可能性は、エンパワーメントにつながる。

この受動的なコミュニケーションと力を与えるコミュニケーションの区別は、ICTが開発にどのように利用されているかを理解するための中心的なものである。多くのグローバル化批判者は、グローバル化を、情報や知識の構成要素や共有方法を定義する権力と影響力の中心に由来する強力な技術的、商業的、文化的影響力のために、より均一化、標準化されつつある情報や知識の流入を促進する文化的均質化のための侵略的な力であると見ています。

電子通信のグローバル化の影響についての反対の見方は、主要な権力中枢からの情報や知識が並外れたレベルで優勢になっているにもかかわらず、コミュニケーションは双方向の過程であり、流入情報は無批判的の状態で受け捉えら、現地の解釈や革新的手法にさらされやすい。

この二つの考え方は、互いに排他的なものではなく、どちらか一方の問題でもありません。ネットワーク社会における変化と発展のための最も重要な力学の一つは、一部のネットワークが自分たちの価値観や目標を押し付けようとする努力と、他のネットワークが自分たちの支配に抵抗しようとする努力との間の緊張関係にある

カステルズ氏によれば、エンパワーメントは、ネットワーキング(フェイスブックなどのような)やインターネットを介して接続された社会運動を含むソーシャルメディアによって強化されると述べてる。彼は、文化的多様性、革新性、ある種の自由を促進するグローバリゼーションのトレンドの証拠としてソーシャルメディアを見ている。

このユニットでは、ICTへのアクセスを中心としたMDG8(ミレニアム開発目標)の概念を超えて、ICTを効果的に利用するための社会的側面に焦点を当てることを目指しています。開発のための知識とコミュニケーションの利用における私たちの課題は、機器やケーブルの最適な配備方法を決定することではありません。むしろ、ICTが社会のさまざまなグループに力を与えたり、力を奪ったりする方法論を理解することが課題となっている。これは、異なる社会集団がどのように知識を定義し、コミュニケーションを利用するかという文脈の中で、プログラムのデザインをしっかりと位置づけることを必要とします。これを実行するためには、コミュニケーションに関わる力関係の種類を理解し、それらが伝達される情報の種類にどのような影響を与えるかを理解する必要があります。

問:カステルズ氏が述べた、ネットワーク社会の出現につながった3大勢力とは何か?

答え:カステルズ氏によれば、20世紀後半にこのような新しい社会構造が出現したのは、グローバル化による産業経済の再編、1960年代後半から1970年代初頭にかけての自由志向の文化運動、そして情報通信技術の革命という3つの過程があったからだと述べていた。

この節では、ミレニアム開発目標(MDGs)の進展に不可欠と考えられる知識やスキルを構築するための実現要因として、コミュニケーション技術がいかに重要な役割を与えられているか、また、MDGs 8では、この観点からICTへのアクセスを強調する技術移転モデルが採用されていることを見てきました。同時に、情報格差と呼ばれるICTへのアクセスを持つ人と持たない人との間の分断の原因については、ICTを効果的に利用するための知識、スキル、リソースなども含めて解釈が広がっている。一般的に、グローバルな世界経済の中で価値のある知識やスキルを得る人と、その点で不利な立場にある人との間の深い社会的格差は、グローバリゼーションの基本的な特徴であり、国の内外で所得格差が拡大する傾向に寄与しています。グローバルなネットワーク社会において、知識とコミュニケーションは開発のための重要な資源である。次のセクションでは、さまざまな理論的パラダイムが、開発におけるそれらの役割をどのように定義しているかを見ていきます。

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