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【短編小説】最終地点の彼方に⑦


「キダじぃは、なんでここに住んでるんですか?」
自分の話をしすぎた。キダじぃの話も聞こう。

「本当はマンションを持っているんだよ。」

光太郎は驚いて涙が引っ込んでいた。道彦も驚いた。

保有しているマンションの、
自分が住んでいた最上階の部屋以外全室を今は人に貸しているという。

数年前に奥さんをガンで亡くしたこと。
奥さんは教師をしていたこと。
娘がいるが、嫁にいってからはキダじぃ1人で暮らしていたこと。
奥さんのものは何一つ捨てることができずにいること。

キダじぃは、お酒を飲みながらゆっくりとした口調で話した。

「妻と暮らしたその家で、1人で暮らしていくのが辛くてたまらなかったんだ。」

「だからって高架下に住むとは、思い切ったね」

「ここにいると毎日のように誰かが来るよ。君たちのようにね。それがなんだか楽しくなっちゃってね。みっちーのように、おそらく普段しゃべらないようなことまで、この場所では皆話してくれるんだ。」


「娘さんはこのことを知ってるの?」

「知らないはずだよ。たまに連絡して、生きていることは知らせてる。」


「みっちー、たぶんみっちーの尊敬している先生というのは、僕の妻じゃないかな。」

「え?」
道彦は、時が止まったかのように硬直した。


校庭の指揮台のところに大きな白木蓮の木がある小学校。
そこで働いていたことがあった。

その職場では旧姓の高橋のまま、高橋先生と呼ばれていたという。

ある時期、「道彦くん」という名前をよく口にしていて、
先程の道彦の話を聞いた時にピンと来たらしい。


キダじぃは、おじいさんと呼んではいたものの
少し明るんできた朝靄の中
よく見るともっと若かった。
わざとおじいさんの格好をしているみたいだ。
そして、高橋先生の葬儀で見覚えのある顔だった。


光太郎は目を輝かせた。
今度は道彦が泣いていた。


「俺が大人になっても、教師になっても、高橋先生は今も変わらず先生でいてくれるんだなあ。」
道彦は涙声でつぶやいた。

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