トンネルの怪

夜、近道をしようとしてトンネルの中を歩いて帰った。
すぐ横の車道ではビュンビュンと車が行き来している。
歩道の前に女性の後ろ姿が見えた。
電話をしながら歩いている。
しばらく後ろを歩きながら、妙なことに気づいた。
このトンネルの中は電波が飛んでない、電話が通じないはずだ。
「私が電話してるの変かな?」
急に彼女が振り返り話しかけてきた。
その顔には、ピンクの唇以外目も鼻も何もない。
のっぺらぼうだ。
ぼくは悲鳴をあげて逃げ出した。
トンネルの出口にラーメン屋の灯りが見える。
慌てて飛び込む。
客は誰もいない。
大将がこちらに背中を向けて仕込みをしてるだけだ。
「大将、今、トンネルの中で出たんです」
「もしかして、出たのは…」
大将が振り返り、カウンターの上に書類の束をドサッと置いた。
「これじゃないですか?」
「こ、これは…」
「この店を出す時に資金を借りた借用書です。思うように店が流行らなくて…」
こちらに顔を寄せ、

「返済の目鼻が付かないんです」



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