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「デア・クラシカー」をバイエルンファン視点で振り返る。


デア・クラシカー

3月30日、アリアンツ・アレーナで2023-24シーズンのドイツ・ブンデスリーガ2度目となる「デア・クラシカー」、バイエルン対ドルトムントの試合が行われた。

ドイツの強豪2クラブによるブンデスリーガ屈指の好カードであり、バイエルンにとっては、レヴァークーゼンとのタイトル争いを続けるうえで落とすことのできない一戦だった。

3月1日付けでマックス・エバ―ルをスポーツ・ディレクターに迎え、トーマス・トゥヘルの後任探しや来シーズンのスカッドを揃えるための活動を本格化させるバイエルンの選手が、どのようなプレーを見せるのか大きな注目が集まった。

しかし結果としてはバイエルンを相手に2得点を挙げ、失点を0に抑えたドルトムントがアリアンツ・アレーナでのリーグ戦で約10年ぶりの勝利を挙げた。本テキストでは「デア・クラシカー」の試合内容を振り返るとともに、何が勝敗の分かれ目であったか分析する。

先発選手


バイエルンはムシアラ、ミュラー、サネのドイツ代表3人による2列目が特徴的な4-2-3-1を採用。去就が注目されるキミッヒはライプツィヒ戦以来、リーグ戦5試合連続となる右サイドバックでの先発起用となった。

対してドルトムントはブラントがトップ下のようなポジションをとりつつ、ジャンがアンカーの役割を果たすという特徴的な4-3-3の布陣を採用。守備時はアデイェミとサンチョが中盤の位置まで降りて、4-5-1のようなフォーメーションを取った。

ボール保持時にエムレ・ジャンの隣でプレーし、数的優位の創出やカウンター対策をする、かつてのアラバロールのような役割を担ったマートセンのポジションどりも印象的。

総評

決して悪くなかったバイエルン

ドルトムントを相手に得点を挙げられなかったものの、バイエルンの試合内容は決して悪いものではなかった。61%ものボール保持からもわかる通り、試合をコントロールしたのはバイエルンだった。とくに素晴らしいプレーを披露した選手はヨシュア・キミッヒである。

試合を通じてバイエルンにみられたビルドアップの方法は、ダイアーとデリフトからサイドバックへ展開する形とゴレツカが守備陣の左へ降りるサリーダ・ラボルピアーナの形の2つ。

そんなバイエルンが前半、ドルトムントの中盤の守備ラインに縦パスを塞がれた際、ビルドアップの解決策としたのが、ゴレツカからキミッヒへのダイアゴナルなサイドチェンジによる打開だった。

サネとキミッヒが右サイドで数的優位をつくり、キミッヒのクロスから決定機が生じるなど、チャンスを創出した。キミッヒ対マートセンのマッチアップは、キミッヒに完全なる軍配が上がった。

とくに前半20分、サネのスルーパスからキミッヒがクロスを挙げたシーンや前半22分にキミッヒがワンツーで抜け出し、クロスを挙げ、ケインが頭で合わせたシーンは印象的だった。

それに対し、守勢に回ったドルトムントの戦い方で特徴的だったのは、アデイェミとサンチョを含めた5人の中盤守備ラインをハーフウェーライン付近に敷いたこととエムレ・ジャンのムシアラへのマークだった。

テルジッチ率いるドルトムントの守備

バイエルンがトーマス・トゥヘルらしいポゼッションを主体とする丁寧なプレーを披露したのに対し、ドルトムントはテルジッチらしくない非常に安定したプレーをみせた。

まったくセンスを感じないデザインのユニフォームにつつまれたドルトムントの選手たちが披露した守備時の4-5-1の布陣は、カウンターを恐れ、遅攻を選択したバイエルンにとって効果覿面であった。縦パスのコースが限られたバイエルンは選手の個人技以外での打開を見出すのに非常に苦しんだ。

加えてバイエルンの攻撃に打撃を与えたのは、エムレ・ジャンのムシアラへのマーク守備である。エムレ・ジャンはビルドアップの面では多くの不安を感じさせる選手だが、相手がボールを持った状態になった途端、その能力を全面に発揮する。

いまのバイエルンにとって、相手を崩す際の最大の武器はムシアラとサネによるドリブルでの突破である。前半を通じて、マートセンと対面したサネはドルトムントの守備を何度か崩したのに対し、ムシアラは1度も状況を変えられなかった。ドルトムントが常にムシアラに対して、エムレ・ジャン+誰かで守る数的優位の状態を作ったためである。

サンチョのマークに追われたデイビスはムシアラをサポートできず、バイエルンの左からの攻撃は完全に停滞した。

ムシアラのプレーを完全に封じる動きとして印象的だったのは、30分にエムレ・ジャンとリエルソンの2人でムシアラを止めたシーンだ。足裏を見せたリエルソンの卑劣なタックルを受けたあと、ムシアラは試合を通じて左足を気にする様子をみせ、集中できていなかった。

獅子奮迅の働きを見せたフンメルス

今回の「デア・クラシカー」のマン・オブ・ザ・マッチを選ぶなら、フンメルスの他にはありえないだろう。ダイアーのヘディングでの決定機を足で止めたシュートブロックも印象的であったし、何よりクロスへの対応が素晴らしかった。

前後半にわたって好守を披露し、バイエルンが作り出したチャンスの多くを阻止した。ドリブルへの対応も素晴らしく、前半にシュートを放ったシーンなどもコンディションの良さを感じさせた。

フンメルスとコンビを組んだニコ・シュロッターベックも素晴らしいプレーを披露した。とくに先制点の起点となったミュラーの縦パスをカットしたシーンは彼の良さが詰まっていたように思う。

ドルトムント攻撃陣も素晴らしいプレーを披露した。トップ下の位置で少ないボールタッチで状況を打開し、先制点のチャンスをつくったブラント、アデイェミのシュートに至るまで、先制点のシーンではドルトムント攻撃陣に完全に崩されたバイエルン守備陣の姿があった。

しかし、ドルトムントの選手のなかからフンメルスの次に優れたプレーを見せた選手を1人選ぶなら、それは間違いなくジェイドン・サンチョだろう。バイタルで反転する役割を担い、何度もドリブルを仕掛け、バイエルンの守備を崩した。

情熱を欠いたバイエルン

今回のデア・クラシカーにおけるバイエルンの敗因は何だったろうか。戦術的な側面で見れば、大きく3点あるだろう。

1点目はムシアラを完全に封じられたこと。ドイツ代表でヴィルツとともに溌剌とプレーしたムシアラの姿はドルトムント戦で見ることができなかった。エムレ・ジャンの功績である。

2点目はドルトムントが決して多くなかったチャンスのなかで、キミッヒとデイビスの裏のスペースを的確に攻撃し、得点を奪ったことだろう。攻撃面では献身的なプレーを見せたキミッヒも守備面ではアデイェミに押されていた。

3点目はドルトムント守備陣の奮戦である。直近のデア・クラシカーでみられた、プレッシングを前面に出すあまり、最終ライン付近にスペースができるシーンがドルトムントに見られなかったことはバイエルンの攻撃をくじいた。先制点の影響は大きかった。

では戦術面以外でのバイエルンの敗因はあるだろうか。私はあったと感じる。今回のデア・クラシカーでのバイエルンにはまったく情熱を感じなかった。選手たちは、何が何でも勝ちたいという雰囲気を喪失した、無味乾燥なプレーに終始した。

トーマス・トゥヘルとエディン・テルジッチはどちらも今シーズン限りで監督を更迭されることが決まっているが、どちらの監督がよりこの試合にかける気持ちが強かったかは一目瞭然だった。

何より最悪なのは、試合後、まだ終わってもいないブンデスリーガの優勝争いを投げ出す発言をしたトーマス・トゥヘルの姿勢にある。今シーズンの王者を捨てる発言はチェルシーなら許されたのかもしれないが、バイエルンでは絶対に許されるものではない。

バイエルン首脳陣がトゥヘルに1シーズンを任せたのは最悪の選択であった。ドレ―センの失敗である。首を切る機会は何度もあった。昨シーズン、ナーゲルスマンを更迭したことを異様に重く捉えすぎ、今シーズンするべき動きができなかったことが、バイエルンの何よりの「敗因」である。

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