おうし座4度 サビアン

虹の裾野の金の壺

雨が上がって湿り気を含んだ空気の中、太陽の光が一帯をやさしく照らしています。

指先から飛び立ったテントウムシを目で追いかけながら、旅人は空を見上げていました。

「虹だ」

もう少し目を凝らせば七色の境界線が見えそうなくらいに鮮やかな、大きな虹がかかっていました。

虹といえば、と旅人はアイルランドに伝わる妖精の話を思い出します。それはこんなお話です。


――妖精の名前はレプラコーン。

人間の子どもほどの身長しかないけれど、ひげを生やしたおじさんで、働き者な妖精は職人として靴をカンカンこしらえ、貯めたお金を壺に入れて、どこかに隠しているらしい。

そのありかは、レプラコーンを掴まえて、悪戯好きな彼を見失わずにいたものだけが、教えてもらえるらしいけど、たいていは撒かされてしまうらしい――。

だから、辿り着く頃には消えてしまう虹の裾にはお金の沢山詰まった壺が埋っているなんて言われている。


金の壺か、と旅人は思いをめぐらせます。


一時の見果てぬ夢とか、そんなたとえ話にも使われるけど、手に入れ損ねちゃったよなんて笑い話になっちゃうかもしれないけど、わくわくするなあ。夢を見ることができる、なんて楽しい話だと思う。

きっと頭では、簡単に幸せが手に入るってことじゃないことはどこかで分かってる。

でもこういう話にロマンを抱かずにはいられないのは、どこかに幸せが転がっているかもしれない!見つけにいこう!と、幸せを探しに行く原動力になるからじゃないかしら。


そんなことを考えていた、旅人の耳に、カンカンと靴をこしらえる音が聞こえてきたような気がして、旅人は驚いて辺りを見回してみるのでした。


※参考 Wikipediaのレプラコーンの頁