おひつじ座17度 サビアン

二人の気取ったオールドミス

空はもう暮れかかっていて、遠くの方だけ黄緑色を残しながらも一面は紺色に暗くなってきていました。

旅人は角を曲がって、公園で今日は休もうかなと道を戻っていました。

歩きながら、脳裏に先ほどの、夕陽に照らされたへんてこダンスの残像が浮かんで思わず、フフフと笑いが口から漏れてしまいました。

「私たちのこと、いい年して独身だからって笑ったわね?」

旅人は、声が聞こえたのでぎょっとして見ると、道沿いのベンチに黒髪に黒縁眼鏡、白のワイシャツのボタンを首元までぴちっと閉めた二人のご婦人が並んで座ってこっちを見ています。

「ちがいます。気を悪くしたならごめんなさい。ただ、ちょっと思い出して笑ってしまっただけで。」

たじたじとして旅人が答えると、

「私たちがおかしいって言いたいわけ?」

手前のご婦人が片手で眼鏡を押し上げながら、鋭くにらみます。

「いいえ。あなたがたとは関係ないことをたまたま思い出して笑ってしまっただけです。」

旅人はできるだけ誠実に弁解しました。

「そう。そういうことならそう言いなさいよ。私たち、デリケートなのよ。」

「そういうわけよ。この子は、寂しさを肴にコークで酔える域まで達しているんだから。」

旅人は思いがけず、二人の弱いところを意識させてしまったようですが、どうやら許してもらえたようです。

「すみません。夜分は冷えますから、気を付けてください。失礼します。」

頭を下げて旅人は冷や冷やしながらその場を離れました。


※2020.5.9下記を追記

弱いところを意識するということは、自分の持ち味を活かしていくことにも繋がると思っています。短所は長所の裏返しという言葉があるように。