おひつじ座16度 サビアン

夕陽に踊っているブラウニー

――ドンッ

旅人の腰に小さな衝撃が走ります。

振り向くと茶色いTシャツを着た、4,5歳くらいの男の子の後ろ姿。

「ブーーン」

と言いながら、両腕を伸ばして走っていきます。

旅人の足元には小さなくたくたなクマのぬいぐるみが落ちていました。

あの子のものかも、と思った旅人は、拾って男の子の後を追いかけました。

男の子が走っていった方に角を曲がると、すぐに発見できました。

干してあった洗濯物を両手いっぱいに抱えて、半開きの扉から取り込んでいるところでした。

「えらいね」

と旅人が声を掛けると、

男の子は聞こえたのか、聞こえてないのか、

「きれーい、きれーい」

と歌いながら、照れ隠しなのか、違うのか、部屋を片付け始めました。

旅人は片付けに夢中な男の子になかなかぬいぐるみのことが言い出せませんでした。

どうしようかと迷って玄関のシューケースの上にそっと置いて立ち去ろうとしました。

その時、男の子は思い出したようにズボンのポケットに手を入れて不思議そうな表情をしながら、辺りをキョロキョロ見回し始めました。

シューケースの上にぬいぐるみを見つけた男の子は、

「よかったあー」

と大きな声を上げて、ぬいぐるみをパッとつかんで箱にしまうと、

「きれーい」

と叫びながら、旅人の小脇をスッと抜けて外に飛び出していきました。

沈んでいく夕陽は、確かにきれいなグラデーションです。

男の子は今度はご機嫌に踊り始めます。旅人の存在は気に止めているのか、いないのか、自分のリズムで楽しく踊っているようです。

旅人はこの姿を見て“妖精ブラウニーが躍っている”とちょっと気取ったタイトルを思いつきながらも、夕陽に照らされた、時々へんてこなポーズが入るダンスを踊る影を見て、込み上げるクスクス笑いを我慢できずにいました。