おうし座5度 サビアン
開いた墓に対峙する未亡人
カンカンカン……
旅人は確かに音が聞こえてくると思い、音のする方を探しました。
公園のすぐ裏にある墓地で女の人が墓石を動かそうとしていました。上手く持ち上がらなくて引きずるようにしているのが下の石にぶつかっていたのが音の正体でした。
女性はお墓を開けたいようでした。
「重いわね、どうしようかしら……」
旅人は女性の目に光るものを見つけました。旅人は自分が加勢しても動くだろうかとよぎりながらも駆け寄って行って声をかけていました。
「誰のお墓なんです?」
女性は驚きながらも静かに答えました。
「夫よ。」
「今日、やっとこの人の遺骨とお別れする決心がついてお墓に入れようと思ったの。」
二人で持つとなんとか墓石が動きました。
女性はお墓を開けて、持ってきた包みからお骨の瓶を入れると、手を合わせ、そのまま旅人に訳を話してくれました。
「私たちには子どもがいなかったから、本当にひとりぼっちになるみたいな気がして怖かったの。だからずっと傍に置いていた……。」
大好きだったから、この人の存在を近くで感じたかったのね。
でも、ふと思ったの。
この人はもう、亡くなっている。
前世とか来世なんてものが本当にあるものかは分からないけど、この人が次のサイクルに入るのを、私のエゴで引き留めているのだとしたら、悲しいことよね、と。
そして、それだけじゃなくて、私の中でこの人はもう、生き返っていると気づいた。
「生き返っている?」
「そう。」
思い出すのは良い思い出ばかりなのよね。けんかをしたり、嫌な思い出もあったはずなのに。
骨という彼の生きた欠片ではなく、もう私の生きる上の血肉になっている、と。
何というか、こういう思い出として彼がいたからこれから先もきっと大丈夫だろうと思えるような、背中を押してもらえるような思い出……。
だから、ケジメじゃないけど、死んでしまった彼に依存というか、寄りかかってばかりではなく、生きている私の方に意識を変えていこうと思ったの。